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第2話
誰かが誰かと話してる。
「……あんた、本当にいいのかい?」
「仕方ないだろ……将 が……になってもいいのかっ」
くぐもったような声が、隣の部屋から聞こえてくるようだ。
将……はとこが、何になるというのだろう?
いつの間に俺は眠ってしまったのだろうか。たぶん、布団に横になっているみたいなのだが、意識はあるのに体が動かせないでいる。当然、瞼も上がらない。微かに香るいぐさの香りと、線香とは違う少し甘ったるいお香の匂い。仏間……なのだろうか。
「それはそうだけど……河西さんに、何というのよ」
「……うちからは、ちゃんと帰ったと言えばいい。その後、どうなったかは、俺たちは知らん」
うち?うちに何を言うって?そもそも今、何時なんだろう。日帰りで帰るつもりでいたけど、俺はどれくらい眠ってたんだろう?
「仕方ないだろ……あずさが、あの日、帰ってこなければ」
あの日?
あの日って?
「こんなことをしないで済んだのに」
スッと襖が開いた音がした。隣の部屋から光が入ってきてるのを感じるのに、相変わらず、目が開けられない。声の感じから、会話をしてたのは、おじさんとおばさんなのはわかった。だけど、二人が俺に何をしたのだろう?襖越しに俺を見下ろしている二人の気配だけを感じる。どちらかの指先が、俺の襟足に触れる。二人の苦し気な声が続く。
「やっぱり……首筋に傷痕がしっかり残っている。この痕があるからには、あずさが蛇神様の花嫁だ」
「……仕方がない……仕方がないのよね」
「ああ、将をやるわけにはいかないんだ」
……は、花嫁!?どういう意味だ?首にある傷痕?……首になんか、そんな傷痕なんかない。もしかして、二つに並んだ黒子のことを言ってるんだろうか。
「ほら、早く襖を閉めないか。俺たちまで、眠りこけるわけにはいかない」
「はい……」
襖が静かに閉められ、部屋が真っ暗になったことが感じられた。一人残された俺は、ぐるぐると頭の中で、二人の言葉を考える。
花嫁……花嫁って、普通、女性だろ。それなのに、俺?ていうか、本当は将が花嫁だったってこと?なんで、俺が?え、身代わり?どういうこと?ていうか蛇神様?そういえば、この神社、蛇を祀っていたな……いや、でも、花嫁って形式的なことなら、別に俺じゃなくて将でもいいよね?
わからないことを考えても、答えは出てこない。
甘いお香の匂いが重く重く、まるで俺の身体全体に纏うように充満しているようで、その重さに引きずられるように、俺の意識も沈み込んでいった。
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