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第3話

 何か探るような感じで、誰かが脇腹を撫でているような気がする。ゴツゴツとした骨太な感じに男の手だということはわかる。誰かが、俺の上に跨っている? 「ん……ん?」  徐々に意識が浮上してきた俺は、ゆっくりと目を開くと、真っ暗な部屋の中、誰かが被さるようにして、俺の太腿のあたりに跨っていた。 「だ、誰だっ!」  慌てて逃れようとしたけれど、掠れた声は出せても、身体のほうが思うように動かない。俺はいつの間にか、白装束で寝かされていたらしいが、今では、完全にはだけている。シーツを握りしめようとしても力は入らず、上半身も起こせずにいると、その誰かの指先が、俺の胸元を這いあがってきた。その感触が気持ち悪くて仕方がない。興奮しているのか、その男の荒い息が俺の肌に触れる。そのたびに、ゾワリゾワリと肌が泡立っていく。 「や、やめろっ……」 「あずさ……」 「……えっ」  男の口から漏れた俺の名前。その声に聞き覚えがあった。 「将さ……ん?」  名前を呟くと同時に、男の動きが固まる。しかし、それも一瞬のことで、男は無言で再び手を動かしだした。 「将さん、でしょ?なんで?どうして」 「……」 「まさっ……んむっぐっ!?」  彼は何も言わずに、今度は俺の口を大きな手で抑え込み、俺の首筋に舌を這わす。その気色の悪さに、身体中に鳥肌が立つ。その舌が徐々に下がり、胸元まで下りる。熱い舌先が俺の乳首を弄り始める。 「んっ、ふんっ……」 「フッ、感じるのか」  ボソリと零れるその声には、嘲りの色しかない。なぜ、彼がこんなことをするのかわからずに、身体だけを弄られていく。太い指先が乳首をこねくり回すけれど、俺には痛みしか感じられない。俺の下半身は恐怖と気色の悪さに完全に縮こまっているのに、将のそれは固く、俺の下半身に擦り付けてくる。まさか将が俺に欲情してるのか?!と思うと、気持ち悪くて仕方がなかった。  将とは、五年前に会った時以来で、正直、それほど親しかったわけでもない。その時だって、顔を合わせて軽く挨拶をしただけで、俺の中での彼自身の印象は薄かった。それなのに、今、目の前で俺の身体に触れているヤツの、下から見上げてくる眼差しの強さは何なのだろう。身体のあちこちで、チクリ、チクリという小さな痛みと、熱をもった舌で舐められる感触に嫌悪感でゾワゾワと怖気が走る。再び、将の低い声が聞こえてくる。 「……あの時、俺が奪ってれば……クソッ……蛇神にやるくらいなら、先に俺が抱いてやるっ」 「っ!?んんんっ!?」   将の手が、いきなり俺のボクサーパンツに手を伸ばし、一気に下げる。将が俺の口を押えていた手を離した。 「っはぁ、ま、将さっ、止めてくださいっ」 「黙れっ」  今度は俺の口の中に、何か布製のものを突っ込もうとする。さっきまで身体に力が入らなかったのが、少しだけ力が戻ってきた俺は、なんとかその手を避けようとするけれど、彼を押し返すほどには、まだ戻っていなかった。俺の両腕は、将の片手で抑え込まれ、口の中にも突っ込まれてしまった。 「うううっ!」  必死に抵抗しても押し返せないことが悔しくて、目に涙が溜まってくる。 「くそっ、もう、効き目が切れてきたのか。仕方ない、縛り上げるか」  将は、すでに準備してきていたのか、布団の脇に置いてあった紐のようなものに手を伸ばそうとしたその時、まるで雷鳴のように轟くような声が響いた。 『我の花嫁に手を出す愚か者めっ!』  ドーン!っという近くで雷が落ちたような衝撃音とともに、部屋の中が真っ白な光に包まれた。

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