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第4話

 轟く声とともに、五年前のあの日の記憶が蘇る。すっかり忘れていた出来事をも思い出させた。  その日も、やはり山々が真っ赤に燃えるような紅葉が美しかった。  親族の俺と同年代くらいの子供が集まって、何か儀式があるとかで、この神社の神殿に一晩、籠らされていた。籠る、といっても、実際に何かやらされるわけでもなく、その部屋でそれぞれに携帯ゲームや漫画や本を読んで時間をつぶしていた。理由も聞かされず、否応もなしに連れてこられた。素直に言うことを聞いたのは、たぶん、新しいゲーム機でも買ってやるとでも言われたのかもしれない。  その部屋にいたのは、白装束を着た男二人、女三人。みんな、俺の従兄弟かはとこで、盆や正月に顔を会わせている連中だった。一番の年長が将で当時十七歳、一番下が十一歳の従妹だった。顔を会わせているといっても、特に親しいというわけでもなく、自然と男と女で別れて過ごしていた。  俺は、小さい頃から、よく女の子と間違われていたた。それが嫌で背が伸びるようにと、バスケ部に入ったものの、結局背は伸びず、十五歳になっても女子と混じると、ショートカットの女の子と間違われるくらいだった。それが酷くコンプレックスで、俺とは正反対に身体のデカい将に羨望の眼差しを送っていた。  その晩、親族で子供とはいえ、男女が一夜を過ごすのはまずかろう、ということで、寝る時には実際には男女、別の部屋に分かれた。別れるといったところで、襖一枚挟んだだけ。寝る時間になっても、いつの間にか仲良くなっていた女の子たちの話し声が聞こえてきていた。  一方で俺はやたらと眠くて、彼女たちのひそひそしたおしゃべりをBGMにしながら、さっさと布団に潜り込んでいた。そして、次に目が覚めた時には、神社の中の神殿ではなく、見たことがない薄暗い畳の部屋で、敷かれた布団に裸で横たわっていた。 「目が覚めたか」  隣に見知らぬ男が同じように裸のまま、肘をついて横たわりながら、俺を見下ろしていた。真っ白で艶やかな長い髪と、端正な顔立ち、そして真っ黒な瞳に吸い込まれそうになる。 「だ、誰っ……え、なに、この声……あ、いたっ……!」  俺は、隣の男に驚きつつも、枯れた声と、腰の鈍痛に驚いてしまう。 「まさか、男を抱くとはのぉ……あの宮司め……謀りおったな……」  ぼそぼそ言いながら、男が俺の身体にのしかかると、俺を抱きしめながら、首筋に唇を寄せた。ひんやりした身体の男からは甘い香りがして、ぼーっと意識が朦朧としてきた。男に抱きしめられている事実に違和感を覚えもせずに、素直に抱きしめられていると、突然、首にまるで太い注射の針を刺されたような痛みに、声にならない叫びをあげた。 「まぁ、よい。我との身体の具合もよいしの。お前が我の花嫁ぞ。しかし、まだお前は幼い。もう少し大きくなったら迎えに参る。それまで、他の者に触れさせるではないぞ」  その声は、とても甘く、優しく、男の手の冷たさが心地よかった。そして、そのまま意識を失った。  翌日の昼頃、俺は神社の裏にある鎮守の森の奥、もう使われなくなった神社の荒れ果てた社殿の中で見つかった。白装束のまま、横たわっていた俺は病院に搬送された。それから三日ほどは昏々と眠り続け、なぜ、そこにいたのか、どうやって、そこにいったのか、まったく記憶をしていなかった。  そして、あの声を聴いて、一気に記憶の蓋が開いたのだった。

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