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第5話

 そして、今、俺のことを抱え込んでいるのは、あの時の男だった。 「あ、あんたは……」  俺の記憶のまま、長くて白い髪と漆黒の瞳の男が俺を見つめている。白い着物には細かな柄が施されていて、俺の情けない白装束姿とは違って、貫禄のある姿。白い肌と印象的な真っ赤な唇に、目が釘付けになる。  俺のほうは着物の衿が大きく開けた状態。男の肩に力の入らない腕を回していた。中学のころとは違い、今では百七十を超えている俺を、この男は軽々と抱えていた。俺と視線があうと、男は優しく微笑んだ。 「久しいな。あずさ」 「え、な、なんで名前……」  相手が名前を知っていることに、驚いていると、足元のほうで男のうめき声が聞こえた。俺は焦って下を見ると、ジャージ姿の将が仰向けになって倒れていた。それも下半身を見事に勃てた状態で。男は、そんな将のことなど、どうでもいいように、俺の顔を見つめながら話し続ける。 「当たり前であろう。花嫁の名くらい知っておる」 「は、はな……よ……め?」  俺が戸惑っていると、ニコリと微笑み返してくる。端正な顔立ちから零れる笑顔に、胸がときめいてしまう。相手は男だというのに、不思議と胸がどきどきしてしまった。 「五年前はもう少し小柄だったが、ずいぶんと育ったのぉ」  しげしげと俺の身体を見る視線が、胸元にある将に付けられたいくつもの斑点に向けられると、恥ずかしくて俯いてしまった。  男は俺から、視線を倒れている将に向けると、先ほどの笑顔が一変、恐ろしく冷ややか声音で呟いた。 「しかし、たかが宮司の息子風情が、二度も我の嫁に手を出すとは、おこがましいにもほどがある」 「……二度?」  俺の小さな声に、男は再び優しく微笑む。 「覚えておらなんだか。まぁ、よい。あんなものは犬に噛まれた程度のことじゃ」 「え?な、なんのこと?」 「よいよい、それより、五年ぶりじゃ。お前の身体をしっかりと味わわせておくれ」  そう言うやいなや、男の艶やかで真っ赤な唇が、俺の唇に重ねられた。 「んんっ!?」  いきなりの口づけに、混乱していると、彼の熱い舌が強引に唇を分け入り、ぬるりと奥まで這入りこんできた。その舌遣いと彼自身の身体から漂う甘い香りに、俺の意識が徐々に朦朧としてくる。ついには与えられる快楽に、自らの舌を彼のそれに絡めだしてしまう。 「や、やめろぉぉっ」  口づけに夢中になっていた俺の意識を呼び戻す、将の悲痛な叫び声が聞こえてきた。荒い息を吐きながら、男の唇からゆっくりと離れる。気が付けば、口の周りは溢れ出ていた唾液でべとべとになっていた。 「あずさは、俺のだ……」  痛々しい声とともに、床を這いずりながら、将が男の着物の裾に手をかけようとした。

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