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第8話
男の身体から香る甘い匂いに包まれた俺は、男の腕の中で、うつらうつらしている。高校時代、あんなにチビだった俺もバスケで鍛えた体も一気に背が伸び、それなりの身長になったけれど、この男は俺よりもニ十センチくらい高そうだった。俺のとはまた違った、鍛え上げられた身体を指先でなぞる。
「んっ……」
ずっと無言で俺を見ていた男が、小さく言葉をもらす。
「……くすぐったい……ですか」
「……フフ」
腕の中から見上げる男は、口角だけ少し上げた。俺の質問には答えず、男は小さく笑うと、俺の身体を抱き寄せた。そして、ポツリポツリと語りだした。
彼は、この神社が祀っている蛇神だった。その証拠に、と、彼の白い髪が、小さな蛇たちに変わるのを見せてくれた。蛇神の指先に、小さな蛇が絡みつく。チロチロと赤い舌先が忙しなく動く。
この神社は、はるか昔から俺の一族が蛇神を祀ってきた。三百年に一度、蛇神との婚姻を結ぶことで、この土地一帯の守護の契約を結んできた。そして、百年に一度、仮祝言を行うことで、その契約の方法を引き継いできた。この家の娘たちに口伝ですべて伝わっていた。それが崩れたのが、俺の曾祖母の時。
「ずっと女系が続いていたこの一族が、男系に変わった」
祖母の兄は、この蛇神の息子だった。百年に一度の仮祝言の時に、宿ったのだという。それを婿入りしてきた曽祖父は喜んだそうだ。そして、そのまま、蛇神の息子をこの神社の跡継ぎにした。十八の時に、土地の庄屋の娘と結婚もして、幸せな家族そのものだった。
「その息子が二十歳の時、病死した」
蛇神は淡々と言葉を続ける。
「病気でなど死ぬわけがないのに」
「え?」
「半分神の血が入っているのだ。病ぐらいでは死なない」
俺は言葉が出なかった。蛇神は俺を強く抱きしめた。その身体はひどく冷たかった。
「嫁は、当時、下働きとして同居していた、宮司の親戚の男と再婚した。その頃、弟と妹がまだ幼く、この神社を継ぐことができなかった。結局、その親戚の男が跡を継ぐことになった。そして、今の宮司が産まれた。まったく我の血など継いでいない者が、この神社を継いだのだ」
彼の指先に力が入る。怒りを抑え込もうとしているのだろうか。その痛みに、俺は小さく呻く。蛇神には、それは聞こえなかったのか、彼は言葉をつづけた。
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