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逢瀬 5

 シャワーを浴びて部屋に戻ると、男は本を読んでいた。俺との関係を持ってから自分のセクシャリティーを疑いはじめたらしく、同性愛に関しての興味が増したらしい。ある日、本棚に書店のペーパーカバーがついたままの本が並んでいるのに気が付いた。中を見れば、男性の同性愛がテーマになった小説の数々で、こっそり抜き取られた嫁の蔵書は男の愛読書になっている。 「またか。今度は何を読んでいる?」 「『凍月』いう新刊。アマゾンでこっそり買うてコンビニ受け取り」 「苦労が絶えないな。面白いのか?」 「そやな、シリーズの中でも異色やな。こっからどう展開するのかめっちゃ楽しみや」 「本はもう終わりだ。シャワー浴びてくればいい」  バスローブを投げてやると、ポスっと音をさせて受け取り浴室に消えていった。『凍月』というタイトルの本は書店のペーパーカバーではなくブルーに染められた本革のブックカバーがかけられている。タイトルと装丁、そしてこのブックカバーに包まれている本をみて、男同士の恋愛ものだと誰が想像できるだろう。  わざわざ買ったのか。  俺という鎖で縛り付ける頃合いだ。お互い、のっぴきならない場所に堕ちる為には、これ以上タイミングを外すわけにはいかない。  本をもとの場所に戻し、ベッドの中に潜りこむ。冷たいシーツに全裸で潜りこむだけでエロティックな衝動に包まれる。冷たさに阻まれて中に溜まりこんでいく欲望は外に飛び出しはしない。だが人肌が引き金になる。一気に噴き出した先は本能のままに相手の存在を貪る。深く、激しく。  1回目は好きなようにさせてやろう。いつものように俺の中に欲を吐き出せばいい。だが今日はそれで終わらない。  堕ちることを強制し鎖でしばりつけるそして手を差し伸べよう。  お前が欲しいと告白しよう。

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