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逢瀬 7 ♥
クローゼットから予備の枕を取り出し、ベッドヘットに積み重ね力を失った男をそっと枕に沈めた。
陰部を隠すように置かれた男の両手首はタオル地の白い拘束によって自由を奪われている。
バスローブの紐がこんな事に使われるとは考えたこともないだろう。
本人は眠りの中から戻ってきていないから、目が覚めた時、自分の姿を見て何を思うだろうか。
ゾクリと背筋に興奮が走る。
眠りに落ちた男の縮こまった陰茎からゴムをはずし、ウエットティッシュで清める間も目を覚ますことがなかった。手首を縛ったぐらいで起きるはずもない。警戒心はゼロ。随分信用されたものだ。
お遊びのようなSEXは終わりだ。未知の領域に連れて行ってやろうじゃないか。枕に埋もれるようにしてベッドヘッドにもたれている姿をベッドの横に立ち見つめる。
ベッドが置かれている反対側の壁にはオーク材のデスクが置かれている。その上に載っているテレビ。そして一番ここで使えるもの、それは鏡だ。
鏡に映る手首を縛られた全裸の男。
ここでようやく辻褄があった。この男のどこに惹かれるのか正直理解できなかった。顔?すこぶるつきのいい男というわけではない。だが、見過ごせない何かを持っているからつい見てしまう。読むことが好きで、理不尽な酔っ払いを許せない好感のもてる男。そういうことではなかったのだ。
無防備に横たわる姿がすべてだった。俺はこの男が裸になってすべてを晒している姿が好きなのだ。裸になったとたんに頼りなくなり、無駄に敏感である感度に加虐心が刺激される。裸であれば、あるだけ非力に見え、縋るような視線を無意識に投げかけてくる。
隙だらけになる姿。何も知らない男を未知の世界に誘い堕とす。その欲求は自分の中に埋め込まれた願望だったのだ。それを体現しているのが、この裸体だ。
ふふふ……理性がほどけていく様をじっくり楽しんでやろう。これから俺に抱かれる姿を存分に見ることになる。徹底的に男同士のSEXを教えてやる。そこから抜け出せない身体に作り変えてしまえばいい。
「ん……」
目をさましボンヤリ正面の鏡を見た男の目が見開かれた。すぐに視線を自分の手首に落とす。
「なな、なんや?!」
「なんだろうな。それはこれからわかる。どう見える?縛られて鏡に映る自分の姿は」
何か言う隙を与えるつもりはない。素早く腿の上にまたがりキスを仕掛ける。半分寝ている身体と脳は緩慢だ。抵抗する動きも思考もついてこられないうちに、口をこじ開け舌をねじ込む。二人の間に挟まるように位置している手首を持ち上げ、腕を自分の首に回せば二重の拘束だ。
「んん!むぅう!」
抗議のつもりか?残念だが、快楽に押し出された呻き声にしか俺には聞こえない。
散々口内を蹂躙し、舌先で唇を一舐めしてようやく口を離してやると一筋唾液が唇の端から伝い落ちた。いちいち自分を刺激する男が憎らしい。この男に溺れている自分にも腹が立つ。
「な、なんや……」
「この半年、男の味を楽しんだはずだ。だがな、その先に進むには経験値が足りないんだよ。
だから見せてやる」
「せい……?」
「男同士のSEXを」
首筋を一舐めするとビクっと肩が震えた。少しずつ唇をすべらせ下に移動する。鎖骨を舐め、脇腹を撫でれば吐息が漏れ出す。胸をまさぐり先端を舌先で湿らせばプクリと立ち上がる。
予想以上の反応に気をよくして、上半身をくまなく唇と指先で愛撫を施せば、頭に置かれた男の手のひらが髪をまさぐるように動きだした。
いつもと違うシチュエーションのせいなのか、完全に勃起し脈打つ陰茎。まずはここから始めるとしよう。舌先で一舐めすると両足がビクっと跳ね上がった。
「あっ!」
焦らせばすぐに達してしまうだろう。それはつまらない。口淫がどんなものか、感じ入ればいい。男だからこそわかるツボを攻めてやる。
一気に根元まで咥える。舌を広げて裏筋側をゆっくり舐めながら唇で挟み込み、ゆっくり上下させる。
どんどん唾液が溜まりだすが、それを飲み込むことはしない。唇と舌、そして唾液で陰茎全体を包み込むイメージだ。鼻の奥で細く呼吸すればえずくことはない。唇から離れてしまうほどカリのギリギリまで舐めあげ、深く飲みこむ。一定のリズムでこれを繰り返しながら、舌を口のなかで躍らせて絶え間ない刺激を与え続ける。
手を休めることはしない。脇腹を撫でさすり、太ももを持ち上げれば、より深く枕の中に男の背が沈んだ。
M字に開脚した自分の股間に裸の男がうずくまっている。それは向かい側にある鏡が余すところなく映し出している事だろう。男にフェラチオされている自分の姿はどう映っている?
萎えるどころか力をどんどん増していく勃起がその答えだ。太腿の筋肉がぴくぴくと張りだした。
もう絶頂が近いのか?これでイカれても困る。
絶え間なく動く唇と舌に加えて、右手を根元にのばした。唇の動きと真逆の方向に上下させると立てられていた太腿が弾かれたように突っ張る。半分上を唇と舌、半分下は直接的な指による扱き。
「んん……ぁぁ、あ、も……もで……」
溜まり続ける唾液に混合するカウパー。確実に増す塩味。体内を巡る加虐心。全てが渦をまいて理性がどんどん減っていく。溺れてしまえ!俺にすべてを委ねろ!
「あああ!あ……だ……で……あっぁ」
意味をなさない言葉が飛び出す。攻めに左手を加え、会陰に指をすべらせ陰嚢を揉みしだく。唇と右手左手、それぞれの異なる愛撫が強烈な刺激となり、男の太ももが痙攣するように震えはじめた。
足首がバネのように反り返ることを繰り返し、うわ言のような喘ぎが脳を焼き切る。破裂寸前に膨らんだ熱が咥内でビクビクと生き物のように動き、舌にのる味がどんどん濃さをます。
頃合いだ。
一気に唾液とともに強く吸いあげる。溜まった唾液をすべて飲み込むと舌をネットリ絡めて喉の最奥へと先端を導く。
唾液という緩衝剤がなくなり、ザラついたぬめる舌の感触が更なる快感を引きだすはずだ。
「ああああ!!でる……イ、イク……あああ!」
ブルリと咥内でうねった先から喉奥に迸る熱。空気に触れると匂と味の濃さが増すから、そのまま飲み下せばなんということはない。清めるように舌先を先端の窪みに差し込み一滴残らず腹に収めた。
溢れだした唾液が陰毛に粘りのある光沢を施している。赤黒くまだ力を失っていない陰茎は腹にぴたりとつくほどに力強い。
男は完全に脱力して枕の中に沈み込んでいた。頭を振ったのだろう、髪がみだれて額や枕に広がっている。何かを祈っているように縛られた手首が胸に乗っていた。目蓋は半分ほどしか開いていない。
その顔をじっと眺めながら自らを慰める。気をいれて施したフェラチオに煽られて、かなり切羽詰まった状態になっていたから、僅かの扱きあげで射精感が沸きあがってきた。
目蓋がわずかに開かれ、互いの視線が絡み合う。何か言いたげに開かれた口からは何の音もでてこないが、そんなことはどうでもよかった。
上気した肌と潤んだ瞳、自由を奪われて放心している姿。下手くそな愛撫よりずっと威力がある。
「うっ、くぅ」
勢いよく飛び出した白濁は男の腹と手に飛び散った。無意識なのか口から舌先が覗き、唇を湿らせたあと、また口の中に引っ込む。
今は俺の事以外考えられなくなっているだろう。強烈な快感に支配され、それを与えた男のことだけが頭脳をめぐり、心が飢えて、喉の渇きを覚えているはずだ。
征服欲が満たされる時――それは俺のタガが外れる時。
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