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カレー /和泉莉緒
その日は墓参りの後、実家で、晩飯を食った。
寄せ鍋、というメニューに、不満そうな子供用に、カレーまで出すオカンの甘さには、オレもさすがに一言言うた。
「なぁ。最近ちょっと贅沢させすぎやないか?」
「は?贅沢て、なにがよ。あの子が食べよるカレーは、昨日の残りもんやで。」
「はぁ、さよか。」
湯気をあげるカレーの中に、ゴロゴロと塊が見えた。
「オカン。この肉なに?」
「え。ウシやけど?牛スジが美味しいって、アンタもこないだ言うてたやろ?」
―やっぱりな。
「チキンカレー、シーフードカレー、どっちも別に何とも思わんと食べててん。そやけど、ビーフカレーて言われたらな。は?カレーはビーフやん!?ビーフが当たり前やろ!てなって。うちらは肉、言うたらウシやて、勝手に思ってたんやって事に初めて気が付いてん。」
とは嫁の言い分や。
関西では、肉言うたら、ウシが普通らしい。
転勤族で、ポークカレー食って育ったオレには、その話はかなりショックやった。
けど、そのビーフも、コマギレか牛スジやと後から聞いて、少し気が楽になった。
「パパも一口、食べる?」
我が子は、小さいながらも、誰かと一緒に食べることの喜びをちゃんと知ってるええ子や。
「いや。これは悠真が食べる分やろ。パパはお鍋があるから、ええわ。」
答えながら、ハタと箸が止まった。
―オレは。
なんで、あの時こないに思わんかってんやろ?
『莉緒がおるから、他は要らん。』
当たり前のことやのに、なんで言えんかったんやろ?
「…パパ?」
「あー、やっぱカレーも旨そうやな。オレもちょっと貰うで。」
飯茶碗を持って、バッと立ち上がり、コンロへと向かう。
「もうっ!!アンタはまた、子供みたいなことして!」
「まぁ、ええやんか。拓真かて、たまにはウチのカレーが食べたいんやろ。」
「ついでに鍋の中、全部さらえてしもといて!」
オカンの尖った声を聴きながら、オレはコッソリ溜め息をついた。
―カレーやおでんは、次の日が旨いて、みんな言うけどなぁ。
作って、ほっといたら、腐るばっかしやんか。
―こんなん、一体どないすんねん!!
思い返して、腸が煮えた。
―ギリギリまで我慢して、泣きをいれろ。
手の甲に触れた唇を思い出してしまった。
ズクン。
自分の中の何かが、疼く。
―アカンて。
今は、アカンやろ?
鍋の蓋を持った手が小さく震えた。
―タッパーに移して、冷蔵庫へ入れて。
オレらは、後何日保つんかな?
あと何日、旨いと思えるんやろな…。
カラになった鍋をシンクに置き、水を注ぐ。
―こんな感じに、オレの心の中も、いつかキレイサッパリ出来たら、ええのにな。
家族が囲むコタツに背を向けたまま、オレは内心そんなことを考えた。
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