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視 /和泉莉緒
たまたま入ったコンビニで『ヤバい心理学』て本をパラパラめくってみた。
―いやいや。
今更こんなん読んだって、敵う相手やない。
棚に戻して、手を引っ込めたとこを同僚の立花に見られた。
というか、いつの間にか、隣に立って別の雑誌を立ち読んでたらしい。
「和泉は、コレやね。えー、なになに…禁じられれば余計に焦れてしまう好奇心の持ち主。タブーをおかすだけでなく、その罰を期待している。イケナイ子だね、と優しく捕まえられたらイチコロ。もしかしたら、クセのある人にハマって、もうこの人以外ではイケなくなるかも!?やって。」
占い雑誌から顔を上げた立花が、ニヤっと笑いよった。
「どう?快感の秘数占い。当たってた?」
―はい。
正しく、捕まってますが、それが何か!?
オレは、口から出そうになった言葉を必死に呑み込んで、冷静なツッコミをいれた。
「立花オマエ、店内で一体何を音読してんねん?」
「secretーmessage年末占い特集号。」
「そんなもん当たるかいや。だいたいソレ、女子向けやろ?オレは男や。」
「でも、さっき目がメチャメチャ泳いでたで?」
「は?コーヒーが熱かってん。」
手にした紙コップを見せて、上手く取り繕えたとホッとした瞬間。
「ふぅん。やっぱ、和泉はつまらん男やなぁ。」
不倫にしか興味が無い、と噂の女は何が気に入らんのか、こっちをジロッと睨んだ。
「はあ?」
オレは思いっきり、首を傾げながら、店の外へ出た。
「こんな風に、ヒトの目気にして。場の空気ばっかし読んで。ホンマ、あんたはつまらん!」
「へいへい。つまらん男でケッコウ毛だらけネコはいだらけ。」
―不倫狙いのケバい女になんか、全く興味あらへんし。
「そうやって、マヌケなフリで、せいぜい素敵な出逢いをスルーし続けるとええわ。」
セカセカ歩く立花は、おっかない顔で言い捨てた。
「あんなぁ。オレにはもうどんな出逢いも、必要ないねん。」
「…奥さんがいるから?」
「ああ、そらまぁ、それもあるけどな…。」
オレはソコで立花が泣いてることに、気が付いた。
―コイツが泣くって。
珍しい事もあるもんやな。
オレは密かに大雪の心配をした。
「この出逢いは間違いやった、って言われたのよ!もっとエエヒト探しなさいっなんて…。」
大粒の滴が、真っ赤な頬を滑り落ちる様子を、ボーッと眺めた。
「ふうん、そうかぁ…。」
「今さら子供が出来るんやってさ。笑ってまうわ。あの人、もう孫がおっても可笑しくない年やのに。まだ諦めてへんかったんやて。」
立花は、泣きながら、顔を歪めて笑った。
「なるほどなあ。」
―もしかして。
ホンマはコイツ、オレが隣におるのも気付かん位、自分の占い見るのに、夢中やったんちゃうか。
それを隠したくて
けど、まず、誰かを責めたくて。
たまたま居ったオレに絡んで、結局、自爆した?
なんでか、そんな気がした。
「難儀なやっちゃ。泣くなら、1回しっかり泣いとけや。ティッシュくらいなら、オレかて持ってるで。」
「余計な御世話やわ!!」
「はいはい。」
いつかウチの嫁さんも、こないに泣く日がくるんかなぁ…。
なんとなしに、そんなことを考えた。
グスグス鼻を啜りながら、立花が訊いてきた。
「ねえ。アンタの子供って、どんな感じ?」
「それがなぁ。おまえどっから来たん?て不思議な気がする位、優しいてエエ子やねん。」
「…親バカか。」
「しゃあないで。ホンマに、そやねんもん。自分でもオカシイて思うけどな。アレには敵わん。絶対や。」
「へえぇ。絶対なんや?」
ギラギラさせとった目を伏せて、立花は小さく呟いた
「…私も産んでみようかな。」
「せやな。それも良いかもしれん。頑張れよ。」
「男なんかいらへん!」
「はいはい。」
―上手いことどないかして、しあわせになれよ。
…で。
オレのしあわせは、どこかいな?
ショウウィンドウの回転木馬にでも、訊いてみたい気分やった。
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