21 / 44

視 /和泉莉緒

たまたま入ったコンビニで『ヤバい心理学』て本をパラパラめくってみた。 ―いやいや。 今更こんなん読んだって、敵う相手やない。 棚に戻して、手を引っ込めたとこを同僚の立花に見られた。 というか、いつの間にか、隣に立って別の雑誌を立ち読んでたらしい。 「和泉は、コレやね。えー、なになに…禁じられれば余計に焦れてしまう好奇心の持ち主。タブーをおかすだけでなく、その罰を期待している。イケナイ子だね、と優しく捕まえられたらイチコロ。もしかしたら、クセのある人にハマって、もうこの人以外ではイケなくなるかも!?やって。」 占い雑誌から顔を上げた立花が、ニヤっと笑いよった。 「どう?快感の秘数占い。当たってた?」 ―はい。 正しく、捕まってますが、それが何か!? オレは、口から出そうになった言葉を必死に呑み込んで、冷静なツッコミをいれた。 「立花オマエ、店内で一体何を音読してんねん?」 「secretーmessage年末占い特集号。」 「そんなもん当たるかいや。だいたいソレ、女子向けやろ?オレは男や。」 「でも、さっき目がメチャメチャ泳いでたで?」 「は?コーヒーが熱かってん。」 手にした紙コップを見せて、上手く取り繕えたとホッとした瞬間。 「ふぅん。やっぱ、和泉はつまらん男やなぁ。」 不倫にしか興味が無い、と噂の女は何が気に入らんのか、こっちをジロッと睨んだ。 「はあ?」 オレは思いっきり、首を傾げながら、店の外へ出た。 「こんな風に、ヒトの目気にして。場の空気ばっかし読んで。ホンマ、あんたはつまらん!」 「へいへい。つまらん男でケッコウ毛だらけネコはいだらけ。」 ―不倫狙いのケバい女になんか、全く興味あらへんし。 「そうやって、マヌケなフリで、せいぜい素敵な出逢いをスルーし続けるとええわ。」 セカセカ歩く立花は、おっかない顔で言い捨てた。 「あんなぁ。オレにはもうどんな出逢いも、必要ないねん。」 「…奥さんがいるから?」 「ああ、そらまぁ、それもあるけどな…。」 オレはソコで立花が泣いてることに、気が付いた。 ―コイツが泣くって。 珍しい事もあるもんやな。 オレは密かに大雪の心配をした。 「この出逢いは間違いやった、って言われたのよ!もっとエエヒト探しなさいっなんて…。」 大粒の滴が、真っ赤な頬を滑り落ちる様子を、ボーッと眺めた。 「ふうん、そうかぁ…。」 「今さら子供が出来るんやってさ。笑ってまうわ。あの人、もう孫がおっても可笑しくない年やのに。まだ諦めてへんかったんやて。」 立花は、泣きながら、顔を歪めて笑った。 「なるほどなあ。」 ―もしかして。 ホンマはコイツ、オレが隣におるのも気付かん位、自分の占い見るのに、夢中やったんちゃうか。 それを隠したくて けど、まず、誰かを責めたくて。 たまたま居ったオレに絡んで、結局、自爆した? なんでか、そんな気がした。 「難儀なやっちゃ。泣くなら、1回しっかり泣いとけや。ティッシュくらいなら、オレかて持ってるで。」 「余計な御世話やわ!!」 「はいはい。」 いつかウチの嫁さんも、こないに泣く日がくるんかなぁ…。 なんとなしに、そんなことを考えた。 グスグス鼻を啜りながら、立花が訊いてきた。 「ねえ。アンタの子供って、どんな感じ?」 「それがなぁ。おまえどっから来たん?て不思議な気がする位、優しいてエエ子やねん。」 「…親バカか。」 「しゃあないで。ホンマに、そやねんもん。自分でもオカシイて思うけどな。アレには敵わん。絶対や。」 「へえぇ。絶対なんや?」 ギラギラさせとった目を伏せて、立花は小さく呟いた 「…私も産んでみようかな。」 「せやな。それも良いかもしれん。頑張れよ。」 「男なんかいらへん!」 「はいはい。」 ―上手いことどないかして、しあわせになれよ。 …で。 オレのしあわせは、どこかいな? ショウウィンドウの回転木馬にでも、訊いてみたい気分やった。

ともだちにシェアしよう!