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逢瀬 札幌編 3
レストランからでて地下へと続く階段のところで電話をかけることにした。2コールであっさり繋がり笑みが浮かぶ。
『・・・もしもし。』
不機嫌そうな声だな、めったに電話しない俺がかけたというのに。不機嫌を隠そうともしない態度で俺に抵抗しているつもりか?これだから苛めがいがある。
「まさかと思ったよ。札幌にまできて俺に挨拶しないとは随分な仕打ちじゃないか。」
『え・・・。』
「嫁と同伴で出張とはいい身分だ。1~2時間程度なら嫁の許しがでるんじゃないか?」
『・・・そんなわけがない。』
いい兆候だ。俺と同じイントネーション。何日この土地にいたのかは知らないが、言葉が伝染したのだろう。
「前回、俺が教えた言い訳はちゃんと嫁に言ったか?」
『言った・・・助かったよ。』
「じゃあ、嫁に代われ。」
『はあ?』
「はあ?じゃない。旦那を借り受けるためのお許しを貰う。和泉がいるホテルに俺はいるんだよ。1Fのレストランにいた俺に気が付かなかったようだな。地下にバーがある、そこに来てくれ。」
『何言ってるんだよ!俺は行かないからな!』
「熱くなるな。嫁が変な顔をしてお前を見ていないか?見ているだろう?何の備えもないままに言い訳を重ねるくらいなら俺が話をつけるほうがリスクはない。俺に逢いたくないのか?
俺は・・・逢いたい。ずっと逢いたかった。逢いたいといってくれるのを毎日毎日待っていた。」
『・・・ずる・・・なんやねん!勝手にせえ!』
何事か交わされる男女の声。さて、好感度のいい男の演技をしなければならないから「いい人」になろうか。
『もしもし・・・。』
そんなに警戒しなくてもいい。あんたをとって喰うわけじゃないからな。
「初めまして藤井と申します。御主人とは縁あって知り合いになった者です。奥さんを同伴で出張にくるとは和泉さんも愛妻家ですね。先日の喧嘩のとき御主人に宿を貸したのが僕です。」
僕と自分で言っておきながら笑い出しそうになる。これはやりすぎだったか。
『まあ・・・そうでしたか。ご迷惑をおかけして。』
「いえいえ、そんなことはありませんよ。僕も楽しかったですから。大阪と札幌じゃめったに逢えないので、1~2時間ご主人をお借りできないでしょうか。泊まっているホテルの地下にいい雰囲気のバーがあります。よかったら奥様もいかがですか?」
『・・・いえいえ、私はいいです。』
「そうですか、残念です。今度こういう機会があったら是非ご一緒させてくださいね。」
『そう・・ですね。馴れない土地を歩き回って疲れてしまって。今日は遠慮させていただきますが、今度は是非。』
「楽しみにしております。ではご主人に地下で待っているとお伝えください。失礼いたします。」
電話を切ったあと、堪えきれずにクスクス笑ってしまった。同じ建物のバーなら出歩くわけじゃないから1~2時間くらいいい。嫁はそう思っただろう、そして和泉も同じことを考えたはずだ。
甘いな、甘すぎる。
俺という人間をわかっていない。身体に漲る力を楽しみながら地下へむかうために階段を降りる。
寒さはまったく感じなかった。
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