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The secret /和泉莉緒
―あれ?
クローゼットの一番上の引き出しの右端。
そこに、見慣れない柄のハンカチがあった。
「…あ。」
―これ、せいのハンカチやんかっ!?
そう言えば…。
帰宅した際に、身に付けていた衣類はコート以外全て、普段通りに洗濯機へ入れた事を思い出した。
―しもた!!
せっかく黙って持って帰ってきたせいの香りが…。
喪失感に、暫し茫然となった。
バレる事を恐れる心と、罪悪感がない交ぜになったあの後の行程は、ほぼ上の空だった。
そのクセ、忙しさにかまけて、荷物の後片付けも、スッカリ嫁に任せきりにしたことに気付いて溜め息が出た。
―ホンマにオレは
間が抜けとるっちゅうか
つくづく浮気には、向いてへんねんなぁ。
まるで、スパイのように用意周到、準備万端な誰かさんとは大違いや。
あーあ…。
それでもすぐに、こう思い直した。
―せやけど。ちょっと助かったんかもしれへんな。
正直、あの香りがするハンカチを手にしたら…
それがたとえ何処であろうが、きっと己の全部が揺さぶられてしまう。
そうなった時、正気で居れる自信がなかった。
――アカン!
思い出すな!!
あの過激な2時間を封じ込める勢いで引出しを閉めた。
――堪忍やで。
誰に言うともなく、詫びの言葉が胸に浮かんで消えた。
クリスマスに息子が描いたという絵を眺めて、呼吸を整えていると
パタパタと軽い足音が近付いてくる。
「パパー。」
「おはようさん。」
「うん、おはよー。」
抱きついてくる小さな体。
「よう眠れたか?」
「うん!!」
満面の笑みは、無邪気だ。
――ありがとう。
また誰に言うともない言葉が胸に浮かんだ。
――そうやんな。
世話を焼いてくれる嫁がいて
こんな笑顔を見せてくれる息子がいて
少々強引にではあるけれども、不安や後悔を、快楽で塗り潰してくれる静がいて
本当に有難いと思う。
―こんなん言うたら、可笑しいんか知らんけど。
どっちを向いても、何をしてても、ええことがある自分は、幸せやと思う。
それでこの幸せを保つ為には…?
とにかく、あのハンカチのことは、どっちにも秘密にすることやろな。
爽やかな朝、なに食わぬ顔で朝食をとりながら、和泉はそんなことを考えていた。
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