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疑 side R /和泉莉緒

最近、夫が変わった。 どこが?と言われても、ハッキリとは分からない。 だが、以前はもう少しコッチを見ていてくれていた。頼ってくれてもいた。 それが、少しずつなくなってきたように思う。 そして何より。 もっとのんびりしていたように思う。 ―この変化の原因は? 仕事か。 体調か。 年齢か。 それとも、所謂、女関係か? 少なくとも、自分ではない。それだけは分かる。 ―私やお母さんが、どんだけ言うたかて、ふんふん、頷いて見せるだけで完全スルーやったのに。 間食を減らし、食事に気をつけ始めた。 ―これはまあ、ええことやとは思うけど。 何キッカケなんかが、全くの謎やってところが、キモいわ。 ―父親としての自覚? それもちょっとはあるんかしらんけど。 どうも違う気がする。 緊張? プレッシャー? 疲れ? よく眠れていないような顔だと思えば、翌日には浮き足立っている。 ―元から掴み所が無い人やったけどな。 最近は、更に判らなくなった。 子供と一緒に遊んでいるかと思えば、妙なタイミングで押し黙ったりする。 何かに悩んでいるのは、確かだ。 ―もっと相談、してくれたら、ええのに。 あまりメンタルが強いとは言えない、どちらかと言えば、ヘタレで不器用な夫だ。 男にしては珍しい。 あるがまま、というか、まるで気負ったところの無い、天然を通り越した、脱力系。 かと思えば、楽しいこと、好きなことには、遠慮なく貪欲に飛び付いていく。 どことなく無防備で、バランスがオカシイ。危なっかしくて、放って置けない。 そういう所が、気になって、世話を焼いている内に、いつの間にか結婚していた。 結婚して8年。 夫だけが変わった訳でもないのかもしれない。 ―私かて、ずいぶんオバハンになってきたもんな。 …ダイエットしてみよか。 ふと懐かしの隊長を思い出して、本棚へ目を向けた。 ―あれ? いつの間にか、ハードカバーが増えてる…? 前はお互い文庫しか買わんかったのに、おかしいなぁ。 目についた青い表紙の本を手にした。 ―へぇ、ミステリーか。 あの人、こんなんも、読むようになってんな。 著者名は、有末静。 ―あれっ? この人BLっていうか、ソッチ系ちゃうかったっけ? 昔、優ちゃんに貸して貰った切ない話の作者が、こんな名前やった気がする…。 まあ、BLで売れた人がメジャーな分野へ移ってくるんなんか、今時普通やし。別に珍しくも無いやんな。 たっくんも、少し位変わったって、うちの人には変わり無い。 悠真には、ほんまにええパパやしな。 そうや! 今日は久し振りに、カニでも買って、それでちょっと飲んで…。 ふふふふ。 お互い発散したら、なんかちょっとマシになるやろ。 あれこれ1人で悩んでもしゃあないもんな。 ポジティブな莉緒さんの心中などどこ吹く風の和泉が、その夜、思いっきり食べて呑んで、爆睡してしまったことは、当然と言えば、当然だったのだが。 ―なんかスッキリせえへんな~。 莉緒さんのモヤモヤに拍車がかかる結果になったのだった。

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