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第2話
ピンクゴールドのふわふわした髪の毛が裏通りの冷めた風に揺れる。
丸くぱっちりした大きな瞳は、突如目の前に現れた謎のうさぎを見つめ、さらに大きく開かれている。
「初めまして勇者さん!ぼかぁ魔法うさぎのキャロット」
白いうさぎは胸に大きな赤いリボンを付けてエッヘンとふんぞり返ってみせた。
「初めましてキャロットさん、でも僕は勇者なんかじゃないよ?」
白く細い手足。美少年は小首をかしげる。
「僕はね、この街で自由気ままな娼年をしているの。人違いじゃないかなぁ」
「娼年!!」
キャロットが叫んでひっくり返る。
そのまま慌てた様子でどこか上空に向かって身振り手振り声を上げた。
「シエルラ様!こいつ穢れた者です!シエルラ様のお力をこんな奴に貸すので?!」
その様子を見て今度は美少年が両手を腰に当てて頬を膨らませる。
「こんな奴?失礼しちゃう!僕にはベルっていう名前があるの!」
細い指先でキャロットの鼻先を突く。
「穢れてるなんて大きなお世話だよ。僕は楽しく生きてるのに。さては君、意地悪だね?」
ベルは眉間にしわを寄せて、慌てるキャロットに顔を近付けた。
その表情、姿、仕草は遠く離れたシエルラの水晶にもしっかり映り込んでいた。
「娼婦か…うーん…出来れば聖職者に近い者が良かったが、寄りにも寄って真逆の人種とは…」
ベッドに腰かけたシエルラは額に手を当ててうつむいたまま深いため息をつく。
背格好は完璧なのだ、性格も素直そうで一番魔力を送りやすい形をしている。
あまり時間がない。
大陸にいる魔王やその手下たちがいつ帰ってくるかも分からず、
できればその大陸にいるうちに近場にいるものを向かわせて何とかしたい。
「…しかたない」
シエルラは水晶に語りかけた。
「初めましてベル、僕の名はシエルラ。魔王によって塔に幽閉された僧侶だ」
「へ?何?空から声がする!」
裏通りではベルが不思議そうにあたりをキョロキョロと見まわしていた。
「驚くのも無理はない。僕は今魔法を使って遠くから君に話しかけている。君に力を貸してほしいんだ」
「力…?」
「そう、魔王が僕を食べようとしている…。結論から言おう。僕が魔王に食べられてしまえば世界が滅びる」
ベルが両手を頬にあてて小さな悲鳴を上げた。
「なんてこと、そんなことになったら大変じゃない!」
「そうだとも。だから君に力を渡し、勇者になって魔王を討伐してほしいんだ」
その言葉にベルが押し黙る。
当然だ、何の力も持たない非力な少年に突然魔王を倒せなどと。
恐怖があるだろう、捨てたくない日常もあるだろう……。
「…僕」
ベルが静かに口を開いた。
「毎日楽しいけど、魔王が壊しちゃったらそれも全部なくなるってことだよね。それなら僕、頑張ってみるよ!」
華奢ながらも声の方へ見上げた瞳は強くきらめいていた。
その瞳にシエルラは息をのむ。なんて純粋な美しさ…。
彼なら、あるいは……!
「ところでシエルラ」
「な、何だい?」
ベルがふにゃっと口の端を緩める。
「魔王様ってどんなおちんぽ様してるの?やっぱり大きい?すごいの?僕すっごーく気になる♡」
「知らねえよ」
即答してシエルラはベッドに突っ伏した。
選択を間違えたかもしれない。いや、確実に間違えた。
シエルラが頭を抱える水晶の向こうには、楽しそうにキャロットに質問を続けるベルの姿が映っていた。
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