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それって媚……編  3 本日の相談者は、武藤環さんです。

 浮気はない。  ぜぇぇぇぇったいに、ない。  それは言い切れる。  だって、そう約束したもん。覚えてるもん。  浮気なんかしねぇって、千尋さんが言ってくれたの、覚えてるもん。だから、浮気はない! 断言しちゃう。でも――。 「床上手になるには……?」 「う、うん」  コクンと頷くと、成木さんが珍しく、目をまん丸くした。  今日は千尋さんがランチミーティングを会社の重役たちとするから、今だー! 今しかない! って、成木さんを呼び出したんだ。外ランチしませんか? って。  結構いつでも飄々としていてさ、本当になんでも知っている成木さんならいい解決方法を教えてくれるかなって。  それに俺の心の中を読めちゃう凄技だって持ってる、すごい成木さんならば! ってさ。俺の考えてることだってぜーんぶいっつも丸見えっぽくて、この間だって、テレビに夢中でアイロンがけに失敗してさ、超高級なやつなのに、嘘でしょー! って叫びたくなるような何万もする千尋さんのワイシャツの背中に大きか黒いとんがり帽子みたいなお焦げをくっつけたの、バレたし。  ――あ、なんか失敗した? 落ち込んでるねぇ。ワイシャツの一枚や二枚気にすることないってぇ。  って、言われた時、我が家のどこに監視カメラがついてるんでしょうか? って思ったもん。そのくらいなんでも知っている、成木さんの知らないことなんてないだろう謎の千里眼の持ち主、成木さんが、目を丸くした。 「これは……また……」 「う」  だ、だって、他に相談できそうな人いなかったんだもん。同性が恋愛対象の人なんてさ。 「相談する人ねぇ…………加納さんとか、社長のことよくわかってるから、聞いたら意外な解決法を教えてくれるかもよ?」  ほら、今だって、なんか俺の胸の内の言葉と会話してるし。 「床上手ねぇ」 「う」  浮気はない、けど。  でも、いつもさ、リードされるばっかりで、千尋さん、飽き……ちゃったりしないかなって思うんだ。 「飽きないっしょ。今でもたまちゃんにぞっこんじゃん」  また胸の内の言葉に答えてくるし。  だって三年なんだもん。よくは知らないけど、三年目のジンクスってあるっていうじゃん。三の倍数のタイミングが一番危機的というかさ。三日、その時はラブラブだったけど、三十日、もちろんラブラブ、三週間、ラブラブ。 「ほぼラブラブじゃん」  三年! ここがすごい重要じゃん! 三! 年! 「いや、昨日だって、なんか二人で楽しそうに次のシーズンのパンプスの話してたじゃん。ラブラブしながら。っていうか、こっちこそ飽きたよー」 「?」 「社長のたまちゃんを見る時のデレ顔」 「で、でも」  もっとあの人に喜んでもらいたいんだ。男の人だもん。そういう願望ないことないでしょ? エロい人に興奮するっていうかさ。たまには刺激的な、とかさ。  あの話しを盗み聞きしてしまった晩、頑張って俺がリードして進めようと思ったんだ。その、夜の、あれこれを。  大胆に……ってさ。  けど、どうしたらいいのかわからなくて、モジモジしちゃって、察してくれた千尋さんに結局リードさせちゃったけど。 「えー、でもそこが可愛いんじゃない? モジモジしてるたまちゃん、俺でも好みだもーん」  そんな怖いこと言わないでください。成木さんもファン多いの知らないでしょ? 結構人気なんだから。会社の女性社員の憧れと羨望の眼差し集めまくりの千尋さんを旦那様にしているだけでも、世界中から羨まられるのに、そこに加えて成木さんとか、俺、きっと呪われるから。お前ほどの米粒がぁ、あ、あ、あ、あ! とか。 「呪わないですよー。やさしーくしますよー」  だから俺の胸の内と会話しないでください。それに優しくしますよってなんですか。 「あははは」  でも、でもさ、俺は俺なりにがんばらなくちゃって思ってはみたんだよ?  途中からだって、形勢逆転を狙ってさ。けど、触られるともうドキドキが止まらなくて。そのまま、彼にしがみついてるのが精一杯でさ。それに体力ないから、途中からヘロヘロでさ。それでもたくさん抱いてもらって。そ、それも、なんていうか回数が多いのも、俺とじゃ一回くらいじゃ満足できないからなのかなって。思ってみたりなんかして。 「いや、そこは普通にたまちゃんが可愛かったから止まらなくなっちゃったってだけじゃん?」  んもーまた俺の胸の内と話すし。 「気にしなくていいと思うけどなぁ」 「で、でも」 「たまちゃん、可愛いもん」 「!」  可愛いわけないじゃん。男だよ?  だから余計に不安っていうか。男でもすごくすごく美人とかイケメンならまだ、ね。けどさ。  ずーっと前に、モテるでしょ? って、千尋さんに聞いたら、知らないって、俺のことしか見えてないから周りなんてわからないと言われちゃったけどさ。でも、やっぱりあんなにかっこよくて、背も高くて行動力もある社長なんてさ、すごくすごくモテるに決まってるじゃん。  美女コンテストの世界一、チャンピオン、とかがもしも千尋さんのことを好きになったら……浮気しないって信じてるけど、でも、俺が敵う気がしないんだ。  そんな美人コンテスト世界チャンピオンなんてものすごいかっこいい、あとちょっと強そう、な人にかは敵わなそうで。 「そのまんまで充分だよぉ」 「……」 「今のままで充分、可愛いから!」  でもさ、やっぱり思うんだ。あんな人を独り占めしてるんだからって――。

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