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それって媚……編 4 本日の相談者も、武藤環さんです。

 そう、あの人を独り占めしてるのなら、独り占めしていいだけの技量? 器? みたいなの? が必要だと思うわけよ。  そして、リードしてくのは無理だったので。  もうそれは翻弄されまくりで、ほぼ毎日イチャイチャしててもいまだに、なすがままの俺なんだけど。三年経ってもまだそういうの成長できてないんだけど。  でも頑張っては、みたんだ。  その、誘惑? とか? してみようかなって。  思ったんだ……けど。  そこで問題が発生したわけで。  ………………え?  って途方に暮れちゃった。  誘うってどうやって、って。  まず、セクシー路線のキャラクターじゃないわけです。男性でもセクシーな人っているわけだけど、まずその要素が俺にない。壊滅的にセクシーさがない。成木さんとかにも、千尋さんにもありがたいことに可愛いと言ってもらえることはある。  ならば、よく言っていただける機会の多い、俺がもらえる数少ない褒め言葉…………可愛いって、なんぞ? そんで、そんな俺があの千尋さんを誘うって、どうやって? ってさ。 「…………何を、突然、言い出すんです?」  小早川さんがものすごーく怪訝な顔をした。 「熱、あるんですか?」 「い、いやぁ……あははは」 「……」 「お、俺、じゃなくて、その、と、とと、友達が、その俺の、女の子の友達が、彼氏をその、自分からも積極的に誘ってみたいけど、できなくてって相談してきて」 「……」 「ほ、ほら、俺、男だから、女の子のことわからないし。けどその子も結構真剣に悩んでたので相談に乗ってあげたいなぁって思って……えへ」 「……」  だってさ、小早川さん、そういうのあんま得意じゃなさそうじゃん。とっても失礼だけれども。セクシー系とか、可愛い系とか、そんなのじゃないですって突っ返すキャラじゃん。そういうとこが俺に似てるから何か参考になるかなぁって。いや、仕事の能力で言ったら雲泥の差があるんだけど。でもでも俺もちゃんとパッセッジョのため、千尋さんの右腕として頑張ってはいるんだ。うん。 「誘う……ねぇ」 「セ、セクシーな下着とかは無理なんだ! は、恥ずかしいよ…………って、言ってた!」  だって無理でしょ。っていうか無理だった。  か、かかか、買ってみたけどさ。インターネットで、その過激下着? っていうの? セクシーら、ララ、ランジェリーなるものを。買ってさ、ちょっとだけ、この間千尋さんの帰りが遅かった時に、ささっと着てみたけど、もう絶対に無理。死んでも無理。というよりもそれを着て千尋さんの目の前に立った瞬間、羞恥心で心臓止まる。確実に。  もうそもそもそういうのキャラじゃないし、俺みたいなちんちくりんがそんなの着たって似合わなすぎてさ。  大慌てでタンスの奥にしまったんだ。捨てなかったのは、取っておいたわけじゃなくて。ただ、ゴミ箱の中にそのレースバリバリの布面積ほぼないそれを入れることが憚られたから。なんか、もういたたまれないっていうかさ。 「かといって、上手に誘惑フレーズを言える自信もないし…………って、言ってた!」  インターネットで検索してみたんだ。誘い方とかさ。  よくある誘う文句「まだ一緒にいたい」って、言ってもさ、もうすでに一緒に住んでますって話だし。  他にも色々フレーズがあったけど、言えそうなのがほとんどなくて。じゃあ、行動で! って思ったんだ。題して、眠気でゴロンってしたつもりがドキドキさせちゃいました? 作戦。「眠くなっちゃった」ってあくびを添えて呟いて、肩にコテン……ってしたら、抱っこでベッドに連れて行かれて、そのまま寝かされちゃったし。本当、普通に爆睡。  ほぼ毎日、えっち、ぃ……コトをしているけど、その日はそれもなくてさ。意を決して、千尋さんの肩に頭乗っけたのに。その肩に頭を乗っけるタイミングのことばっかり考えてたせいで、その時観てたドラマ、一週間前から気になっていた展開だったのにほぼ覚えてないし。  そんなこんなでことごとく失敗に終わった。三年目の自分改造。 「そうですね……」 「! はいはい! はい!」  腕を組み、口元を細く綺麗な手で隠しながらぽつりと呟いた小早川さんに身を乗り出してしまった。 「フレーズも下着も必要ないと思いますよ」 「え? でもそれじゃあ……」  ただの変態じゃん。無言で、裸ん坊で近寄っていくとか。本当にただの変態で、それじゃむしろ離婚の危機が来ちゃうんじゃないの? 「っぷ、何を想像しているのかわからないですけど、普通でいいと思いますよ」 「えー?」 「自然の成り行きに任せてしまえば」 「でも」 「むしろ、そういうふうに悪戦苦闘している姿も可愛いと思っていらっしゃるんじゃないですか?」 「ぇ?」 「……その環さんのお友達の、恋人は」 「あ、うん」  誘い文句も、過激で刺激的なランジェリーもいらない、なんて言われても。 「悩み解決するといいですね」 「……うん」  小早川さんはそこでにっこり笑って、コーヒーを一口飲んだ。俺は、小早川さんみたいに大人なブラックじゃなくて、砂糖もミルクもたっぷりのお子様味のコーヒーを飲みながら、はぁと小さく溜め息をついた。

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