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第21話 貴方にほぐされる。
コンドームとローション、買ってきてたんだ。だから、遅かったんだ。コンドームならきっとコンビニでも売ってるだろうけど、潤滑液は、絆創膏も湿布も、それに耳栓だって売ってるコンビニでもないよね。
千尋さんはそれを買うために、三十分以上もかけて薬局へ行ってきてくれた。
「……」
俺と、これからすることのために。
千尋さんと、今から、するために。
「ローション探し回ってたんだ」
ひとりベッドの上で待ちながら、じっと、薬局のビニール袋を見つめていたら、バスルームの扉が開いて、千尋さんの声がして、思わずびっくりしてしまった。
「必要だからな」
シャワーしてたから当たり前なんだけどさ、千尋さんは裸で、腰にタオルだけを巻きつけてて、そんで髪が濡れてる。
「……環」
「は、は……い」
うわ。どうしよ。ドキドキする。
返事をした俺にクスッと口元だけで笑った顔が意地悪くてドキドキする。濡れた髪を乾かしもしないで、洗ったまんまで、いつものオールバックなのがこんなふうに洗いざらしにされただけで無防備な感じがして、ゾクゾクする。漂う本当に数分でシャワーを終えて出てきたこの人から香る、自分もさっき使ったボディソープの香りと男の色気に、クラクラする。
そして、ゆっくりとベッドに乗り上げて、その真ん中でずっと待っていた俺へ四つん這いで近づく千尋さんに今から食べられてしまうみたいに思えて、目を瞑った。
「ンっ……んふっ……ン、ん」
目を瞑ったら、キスされて、舌が入ってきた。
「ぁ、ふっ……ぁ、ちひ、ろ、しゃ……ンっ」
舌を差し込まれたまま、うなじを掌で撫でられて心臓がキスで塞がれた口から出てっちゃいそうだ。
「ぁ……ンっく」
唇が離れたら、交換しあった唾液が零れてしまいそうで、ごくん、って喉を鳴らしてしまった。その音にも、視線にも、うなじから首筋を撫でる掌にも、もうおかしくなりそう。
「やめて、やんねぇからな」
だって、バスローブの下、俺も、この人も裸で、そんでさ、今から俺たちはするわけで。
「っ」
そのバスローブの中に指先が侵入してきた。
「環」
「逃げません」
その手にドキドキするけど。心臓壊れそうだけど。でも逃げないし、やめてなんて欲しくない。
「俺、本当に、千尋さんと、するって、想像した」
「……」
「裸で待ってたんです。俺っ、経験ないけどっ、その、どっど童貞だけど! でも、千尋さんとするって、ちゃんと考えました! よくわかってないけど、その……童貞だから……でも! ちゃんとお、お、お尻洗ったし! あと、あ、お尻でするのも知ってます! それと、えっと」
「もうわかったから。それ以上、攻撃すんなよ」
「は? へ? ンっ……っ」
首筋を吸われた。チュウッて吸い付かれた音がしてびっくりしたら、そのままそこを舐められながら、ベッドの上に転がされて、千尋さんの濡れた髪が頬に触れてしまう。
「人のツボ、連打しやがって」
「へ、あっ、ちょっ」
「煽ったの……」
お前だからな、そう言って不敵に笑ったその人こそ、俺のツボを連打してくるんだ。
「はっふっ……ン、んんっ」
唇へのキスだけで溶けそうだったのに、全身にそれをされて、蕩けて、そして。
「あっ、ひゃあぁっ……ンっ」
胸にくっついたふたつの粒にキスをされたら、もうなんか、何もかもフワフワトロトロに蕩けてしまいそう。
「あっ、やだっ、千尋さんっ」
乳首なんてさ、いじられても気持ち良くならないと思ってた。たしかに最初は変な感じがするばっかりで、くすぐったいっていう方が強かったのに。でも、今は。
「んやっ……ぁ……ン」
この人のキスが上手いのかな。乳首、おかしくなっちゃいそうに気持ちイイ。硬くなって、その濡らして撫でてくれる舌先に歯向かうみたいに押しのけてる。それを撫でるように舌で転がされて、唇で扱かれてもっと、ツンって尖がって、また、舐めて濡らされて。反対側は指で摘まれて、爪で引っかかれて、甘い声をあげてしまう。
俺、乳首で感じちゃってる。もっといじられたくなってる。千尋さんの白い歯が乳首の先端を齧るたびに、やらしい汁がそそり立ってる自分の先端から溢れて恥ずかしい。乳首を少し痛いくらいに引っ掻かれると、千尋さんの下でペニスがピクンって揺れて震えてしまう。
「千尋、さ、ぁ……ンっ」
こんな気持ちイイのも、こんなに感じて、抑えきれず溢れる甘い声も恥ずかしいのに。
「環……」
でも、この人がさ、乳首をいじられて、気持ち良さそうにしてる俺を見て。
「すげ、可愛い」
「ン、んん、ふっ……胸、ダメ、気持ちイイ」
目が合う度に嬉しそうに笑うから、心が開いてく。恥ずかしいとこを見せれば見せるほど、そんな顔するなんて意地悪だ。もっと開いて晒したくなるじゃん。
会社では専務で、仕事バリバリこなして次期社長で、後ろに撫で付けた髪型が驚くほどよく似合う、ヤのつくお仕事についてそうな強面。そんな人がずっと嬉しそうに笑って、セットしてない髪を乱して、俺の胸に歯を立てて、舐めて、キスしてくれる。
モテるだろう千尋さんが何もかも未経験な俺なんかにでも、もっとやらしくなれたら、夢中になってくれるのかな、ってジリジリと焼けるように火照る脚の間を見せつけてしまいたいって思った時だった。
「……千尋さん? それ」
胸と唇、他にもたくさんくれた気持ちいいキスが止まってしまった。と思ったら、買ってきたローションを千尋さんが手に取った。とろりとした透明なジェルのようなそれを掌に垂らして、手の中でぬちゅくちゅ音を立ててまぶしてる。
それをじっと見てたら、手のぬくもりで温めてるんだって、教えてくれた。そのままお尻に垂らしたら、冷たいからって。
「四つん這いになれるか?」
「あ、あの。すみませんっ」
「?」
ちょっとだけ、やっぱ、ドキドキはしててさ。そこを使うってわかってて、綺麗に洗ったけど、やっぱ緊張するから。
「千尋さんの顔見てたい」
「……」
「ダメ、ですか?」
意地悪な顔も笑った顔も、なんでも、この人のこと全部好きなんだ。だから、見てたい。
「あっ」
この人のこと見ながら、ほぐされたい。
「あ、あっ……」
「環っ」
ローションを纏った指が中に入ってくる。骨っぽいあの指がお尻の孔を抉じ開けてく。
「きついな」
「あ、あっン……だって、お尻」
「意識すんな。緊張するときつくなる。こっちもしてやるから、気持ちイイのだけを感じてろ」
「へ? あ、ひゃあああ」
びっくりしたのは。ずっと感じて反りかえってたペニスが濡れた感触に包まれたから。
「あ、や、嘘っ」
嘘! ウソウソ、嘘だよね? 俺の、今、千尋さんの口の中に。
「環、こっちだ」
こっちもそっちもないよ。だってそこを咥えられてる。
俺の口の中、そっちを感じてろって、咥えられながら言われて、全身が震えてしまう。仕事の時には皆をまとめられるリーダシップバリバリの人の、その唇に、さっき、たくさん俺の口の中をまさぐってた舌に愛撫されて、もう、無理だよ。すぐにでもイっちゃいそう。千尋さんの口の中でイっちゃう。あの口に今、やらしいことされてるなんて、考えただけで、もう。
「! ン、んんんっ」
その一瞬、知らなかった痛みにも近い何かが、電流みたいなものが、身体を走った。
「あ、あああああああっ」
イっちゃったかと、思った。
「や、何? 千尋さんっ」
でも、イかなかった。イけなかった。千尋さんの手が俺のペニスの根元をぎゅっときつく握りしめて、せり上がってくる白いのをそこで塞き止めてる。
「……前立腺、まだ、痛みに近いかもな。でも」
わかんないよ。だって、そこビリビリする。痛いのかもしれない。でも、また千尋さんの口がくれる愛撫が再開されて、それを痛いじゃなくて気持ちイイに、その舌先で変えられてしまう。身体の内側を指で押され、擦られながら二本、三本って増えていく指で開かされて、舌でペニスの先を舐められて、吸われて、全部ぐちゃぐちゃに混ざり合ってしまう。
「そのうち、よくなる」
嘘だよ。そのうちなんて、ウソばっかだ。だって、もう、俺、気持ちイイ。
「あ、やだ、千尋、さんっ」
イっちゃいそうなんだ。そこ擦られて、前を吸われて、おかしくなっちゃいそうで、怖くて必死に手を伸ばした。好きな人に手を、痺れる指先を伸ばしたらローションにぬめる指先が力強く掴んでくれた。
「も、イイ」
「環……」
「千尋さん、わかんな、い。も、お尻んとこ、ジンジンしてるし、指で中の変なとこ押されると、出ちゃいそう。それに」
その指先が熱かった。俺を見つめる瞳が濡れてて、そして、しかめっ面は苦しそうで、あと……。
「千尋さん、は?」
あと、この人の下で身を捻りながら、もっと手を伸ばして。確かめさせて欲しくて、快感に震える声で訪ねた。
「千尋さんは、俺でも、興奮してくれてますか?」
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