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第23話 大人の雰囲気出ちゃってます?

「は、ぁ……はぁっ……」  キスしてるのと代わらない距離にこの人がいて、俺の中に千尋さんがいて、身体が重なり合ってるから、荒い呼吸もごちゃごちゃに混ざり合ってる。肌は火照って、身体の芯までものすごく熱いのに、ずっとこうしてたいって思った。 「千尋、さん」  ゴム越しでもわかるくらい、ドクドクと脈打つそれを内側で感じながら、しかめっ面なその人を見上げた。  カッコいい。凛々しい眉毛をひそめると怖い顔と最初は思ったのに、今はそれすら大好きでさ。涼しげな目元も、黒い睫毛も、すっと通った鼻筋も、セクシーな薄い唇も何もかも、カッコよくて、手を伸ばして触れるのさえ躊躇うのに。俺、今、この人のこと独り占めしてるんだ。 「平気か?」 「へ? あっ……ンっ」  貴方が抜けてしまうだけでこんな、名残惜しそうな声が出ちゃうくらい。  この人は不器用なのにすごく優しくて、こんな時でも俺のことを想ってくれる。だから、平気じゃないよ。大好きすぎて困ってます。 「環、痛いとこは?」 「な、いです」 「本当か?」 「っあ、あの、千尋さんは?」  痛くなんてない。壊れちゃいそうなくらいに貴方でいっぱいになれるの、すごく気持ちよかった。初めては失敗しちゃうかもって言われてたのに、俺はイっちゃうのを我慢するくらいなんか色々良い感じで、千尋さんも俺の中でゴム越しにちゃんとイってくれて、嬉しかった。 「俺、初めてだから! 千尋さんとする時のこといっぱいシュミレーションしてたんです」 「……」 「千尋さんは、あの、ちゃんと気持ち良くなってくれましたか? 俺は、そのすごくよかったんですけど、その」 「……お前さ」  大きな溜め息がひとつ。  その溜め息に肩が竦めて身構えてしまう。 「無自覚」 「へ? ン、んっ」  いきなり息ができないくらいのキスで唇を塞がれて、千尋さんの重さが乗っかるとベッドにふたりで沈んだ。俺はこの人をこの中で受け止めたんだって、思いながら、まだたどたどしい舌でキスを返して、自分からも齧り付いてまさぐっていく。 「……ン」  離れた時には心臓が暴れて騒がしいくらいの激しいキスに唇が濡れてしまう。 「信じらんねぇ」 「? ぇ? あの、千尋さん?」  目が合うと息をするのも忘れちゃうんだ。 「お前のこと」 「!」  そのくらい、この人のことを好きになった。 「抱いたんだなって感動してる」  この人の全部が好きで、ひとつひとつに胸が高鳴るくらいに恋をしている俺は、ものすごく嬉しそうに笑ってそんなことをしみじみ言う人に蕩けてしまう。胸のところがたまらなくくすぐったい。 「環、これ、噛んで」 「へ?」  今度は俺の歯でコンドームのパッケージを噛み千切った。 「手、貸して」 「へ? え? あ、あの」  そして、器用に俺の手を使ってくるくるとゴムをつけさせられた。 「あ、あの……千尋さん?」 「気持ちよかったんだよな?」  はい。とても。 「痛いとこも、ない」  だって、すごく丁寧にローションと指で解されたから、こんなに大きくて太いのもちゃんと入ったし。成木さんには初めてはそう上手くいかないって言われたけれど、ちゃんと気持ちよかったし。 「俺も、すげぇよかったよ」 「んひゃああっ」  耳に! 耳に息を! 吹きかけられたの生まれて初めてだったんですけども! こんな声が出るんだ。 「だから、よかったって、身体に教えてやる」 「あ、ああああああの、あの、ぁっ、ん……ダメ、ぁっ……ン、今、俺っ」  そして、さっきまで飲み込んでいたそこにまた埋まる熱。また感じる圧迫。それに身体は壊れそうっていうか、嬉しそうで。 「環の中、すげぇ、吸い付いてくる」 「んひゃあ! あっ、ダメ、あ、そんな、いきなり、動いたらっ」 「環」  ズルいよ。 「あ、やぁン、ン、ぁっ」  そんな気持ち良さそうに俺の中を揺さ振らないでよ。 「あ、あっ、そこっ」 「前立腺だ」  耳元で囁かれながら、そこばっかり攻められて、俺を攻めながら表情を歪ませる千尋さんを見てたら、すごく気持ち良くて、もうスイッチが入ったみたいに奥が疼いて、たまらなかった。  何あれ。なんなんですか、あれ。  ――環、優しくしてやる。  ――お願いします。あの、俺。  ――わかってるよ、環。  ――あっ、千尋さんっ。  そして見つめ合うふたり、とか、どこ行ったんですか。  あ……すご、デカい、なんて言っちゃったし、お前に触られたらイくだろうがって怒られたし、「ン……イ、です。痛くても」なんて、言って欲しがってたし。 「……」  俺、すごく欲しがってたし。初めてなのに、二回目を躊躇ったのだって最初だけで、俺、そのあと前立腺攻められて気持ち良かった。初めてなのに、失敗どころか何回イッたかわからないくらい何度もイってた。  ――あ……ン、千尋さんの、大きいので奥、して、欲しい。 「初めて、大失敗?」 「んぎゃああああ!」 「うわっとっとっと、コーヒー零すよ?」 「成木さん!」 「おっはよん」  爽やかだ。なんて爽やかな笑顔なんだ。さっきまで、すぐ目の前で意地悪な笑顔しか見てなかった俺にはなんだかやたらと眩しく感じられて、ドラキュラみたいに手で避けてしまいたくなる。  あぁ、俺、大人になっちゃいました。童貞じゃなくなっちゃいました。成木さんの仲間入りしちゃったんです。ふふ、どこかやっぱり漂っちゃうのかも。色気? 大人の? 脱童貞的な感じで? 「……おはようございます?」  深呼吸をして、脱童貞感が漂うように静かに、大人っぽく朝の挨拶をした。 「あははは。やっぱ、たまちゃん面白い」  その清らかな笑い声も眩しいと感じるほど、つい、朝方までずっと、してたんです。なんでしょうね。この気だるさ? 腰の重さ? 「初なのに、がっつり回数こなしちゃうって人、初めて遭遇したよ」 「……え?」 「キスマーク、いっぱいついてる」 「あ!」 「俺のもんだ的な感じ?」  へへへって笑って、自分の、見えてないけれど、キスマークがあるだろうあたりを掌で撫でてみた。 「そっかぁ。たまちゃんがついに!」  えぇ、そうなんです。脱、しちゃったんです。 「脱バージン」 「……へ?」 「え? だって、えええええ? ま、まさか、千尋さんが? ネコ?」 「あっ? いや、え? あ、ネコ、えっと……ああああ! 違います! 俺が、ネ……」  あれ、もしかして。 「おめでとう! たまちゃん!」 「!」  自分がいまだに童貞だっていうことに気がついて、大人の色気とか、ただならぬ雰囲気とか吹っ飛ぶほどに、声にならない叫び声をあげたのは約三十秒ほど後のことだった。

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