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第27話 朝の五時はまだ、夜ってことにしておきます。

 只今、朝の五時です。ヤバいです。これは……ヤバい。 「……」  目を覚ましたら、イケメンの綺麗な寝顔が目の前にありました。  って、なんか、ラノベとかのタイトルでありそうじゃない? もっと長くないとダメですか? それなら、「ちなみにそれは俺の旦那様でした」って付け加えたらどうでしょう。 「千尋さん……」  そっと、名前を呼んでから、手を伸ばした。触ると起きちゃいそうだから、そっと、その唇に指先を持っていくと、寝息が僅かに掠めて、空気に溶けていく。  寝顔、見ちゃった。  昨日たくさんやらしいことをして、その間、男の色気とフェロモンをダダ漏れさせてた人の無防備な寝顔。思い出しても赤面して、頭から噴火しそうなくらい、やらしいことをたくさんした。やらしいけど、優しくてあったかくて、幸せなセックス。俺、気持ち良すぎて、たくさんしがみついちゃったから、もしかしたら背中を痛くしてしまったかもしれない。あとで、背中見せてもらわないと。昨日、たくさんした後、シャワー浴びる時も絶対に背を見せてくれなかった。きっとたくさん引っ掻いたんだ。  それなのに、そんな幸せそうな寝顔。  あんなに強面でさ、ふてぶてしくて、ブス三兄弟がブーブーブヒブヒ鳴いたところでだからなんだと平然としちゃうような人の寝顔がこんなに無防備で可愛いなんて、ちょっとダメだと思うんですけど。ヤバいと思うんです。  すぐに、ここ、ここの眉間のとこに皺つくって難しい顔するくせに、寝てる時はちょっと八の字っぽくなるし。意地悪なことを言うか、意地悪く笑うか。あと、仕事場ではそうでもないけど、俺の前だとけっこう言葉使いも乱暴な人が、こんな、薄っすら口開けて寝てるなんて、ズルいと思う。  こんな気持ち良さそうな寝顔、ズルいよ。この顔、何人くらいの人が見たんだよ。いいなぁ、うらやましいなぁ。 「朝、苦手じゃねぇのか?」 「! ちひっ、……んっ」  パッと開いた瞼。すぐそこでバチっと音がするほどぶつかった視線。  びっくりした俺が飛び起きるよりも、距離を取ろうと背中を反らせるよりも早く組み敷かれて、唇を奪われた。 「ン、んっ……ン」  只今、朝の五時だってば。その時間帯にするには、舌が絡まって、口の中を舐められて、掻き混ぜられて、濃厚すぎるキスに目眩がした。首につかまりたいけど、手を伸ばすのは我慢した。ほら、背中には俺の残した引っかき傷がたくさんあるだろうから。また爪を立ててしまったらって、抱きつきたいのを堪えた。 「俺の寝顔観察してるお前、めちゃくちゃ可愛いな」 「!」  唇が離れたと思ったら、こっそり起きて、俺の方こそ観察されてたって教えられて、真っ赤になってうろたえるけれど、それもまた再開したキスに翻弄されて中途半端に口の中へと消えていく。くちゅって、唾液が立てる音と、俺の零す吐息混じりの声だけが響いてて、寒くなってきた朝の五時じゃ、他の音がほとんどしなくて恥ずかしい。  ほら、って何かをねだるように、口の中を弄られて、溶けちゃいそう。朝ですよ、起きてくださいって思う真面目な俺が溶けて消えてしまう。 「見てるだけでか?」 「へ?」 「触りたく、ならなかった?」 「!」  もぞりと布団の中で身体が重なる。朝方五時じゃ、もう部屋の中だって冬と変わらない気温で肌寒いから、布団の中にこもって、そんで、二人分の発熱もこもる。 「俺は、触りなくなる」 「あっ! ん……ぁ、ダメ、触ったらっ」  半身で受け止めた千尋さんの重さで身動きができなくて、素肌同士で密着するのは俺にとっては愛撫と何も変わらない気持ち良さで、むくりと起き上がった熱を詰め込んだペニス同士が、身体と同じように重なって、同じように擦れ合って、愛撫のし合いっこになる。愛撫し合いながら、パチンッ! って、ローションの蓋が開く音がした。 「柔らかい」  クプリと差し込まれた指は中になんなく侵入して、覚えたての快楽を待ち望む肉粒に触れて、身体が揺れた。 中をまさぐられて、昨日、その奥にまでたくさん千尋さんを埋め込まれて、気持ちよくさせられたせいで、もう疼いちゃうんだ。 「んあぁぁぁッン!」 「環」 「あ。ダメ、も……」  次の言葉を言おうかどうしようかって、ドキドキしながら躊躇って止めたけれど。 「イっちゃうそう、だから、早く、千尋さんの、ぁ、あああっ!」  ずぶりと貫かれた瞬間、焦れて火照ってた前立腺は素直に刺激を身体の中で弾かせて。 「環、動くぞ」 「あ、ンっ、んんんっ、ぁ、千尋さんっ、ぁ、ダメ、それ気持ちイイ」 「環」  狂おしく内側から攻め立てて、俺のことを逃さないようにって、奥深くまで打ち付けられて、激しくて。 「あ、あっ、あぁ、千尋さんっ」 「環、手」 「だ、め、背中が」  俺のこと抱きかかえながら、腕は優しいのに、中を突き上げるのはきつくて強くて、クラクラする。だから、そんなふうに背中に手を回せって言われても、また痛しちゃうんだってば。 「バカ」 「あっン……そこ、擦って」 「お前のくれるもん全部、気持ちイイに決まってるだろうが」 「!」  ホント、ダメだと思う。 「あ、あぁっン、ん、、あっ!」  ふてぶてしくて強面のくせに、俺のこと抱きながらだらしないくらいに笑顔で、背中の傷すら気持ちイイなんて言うのは、本当にズルいよ。ダメでしょ。でも、嬉しくて、何もかもを受け入られたくて、限界まで脚を開いていた。 「おー……週末でかなりリフレッシュできたんだねぇ」 「ちょ! そんなんじゃないですってば」 「いいからいいから」  成木さんがなぜか頷きながら、俺の肩を手を置いた。リフレッシュできた、のかな。ただ満ち足りてはいたけれど。 「おい、成木、こいつはダメだからな」 「わーかってます!」 「千尋さん」  この人にたくさん満たされた週末だった。セックスのことだけじゃなくて、ただ一緒に料理をしたり、食器洗ったり、洗濯したり、シーツ替えたり。それをふたりで、千尋さんとできるのがすごく気持ちよかったんだ。 「って、成木さんが、ゲ……ゲイって……その、知ってたんですか?」 「あぁ、まぁな。こいつ開けっぴろげだからな」  そうなんだ。知ってたんだ。成木さんは笑いながら、上司である千尋さんのことをからかっていた。そんなことができちゃうのも千尋さんの人柄なんだと思う。俺様って言うか、、王様みたいなところがあるけれど、でも、それはえらいフリをしてるだけの冠をつけた王様じゃなくて、本物の「王様」。 「それで? 試作のほうは?」 「あ、は、はいっ! えっと」 「千尋様!」  びっくりした。いつも穏やかで笑顔の加納さんのこわばった声と、丁寧な所作しか見たいことのない加納さんの乱暴な扉の開け方に。驚いて、試作のパンプスを落っことしてしまった。 「……どうした?」 「社長がお呼びです」 「わかった。すぐに行く」 「いえ」  ずっと疑問だった。加納さんって汗ってかくのかなって。どんな時も涼しげな表情を崩さない人だから。 「いえ、それが今夜、おふたりで試作の靴を持って、社長宅へ来るようにとのご命令です」  そんな人が額に滲ませた汗は、これから起こる何かに胸を騒つかせるのには充分すぎる汗だった。

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