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第3話
須藤と同棲を始めてから約三ヶ月半が経つ。一緒に住むきっかけは強制的で、当初はどうなるかと思われたが、プライベートな時間、空間も与えられ、佑月のプライバシーは守られている。そのお陰もあってか、とても毎日が過ごしやすい。だがそれ以上に、やはり佑月にとって、好きな男と一緒にいられる時間が増えたことは、一番の幸福だった。
「スクランブルエッグ、もっと欲しいなら焼くけど?」
「あぁ、頼む」
「本当、ずいぶんと気に入ってるよね」
「旨いからな」
スクランブルエッグが好き。そんな須藤が可愛くて仕方ないと思っていることは、絶対に口には出来ないことだが。
須藤曰く、醤油と砂糖、塩のバランスが絶妙なのだそうだ。普段甘い物は絶対に口にしないのだが、スクランブルエッグに関しては少し甘めが好みのよう。元々は佑月の好みの味で出したスクランブルエッグだったのだが、須藤とも好みが合ったのは、言いようのないほどに嬉しいものがあった。
「はい、お待たせ」
「ありがと」
スクランブルエッグを口に運ぶ須藤を見て、佑月の顔は綻ぶ。最近までお互いに忙しさにかまけて、時間まで寝ていたかったりと、朝食を摂ろうとはしてこなかった。だが佑月よりも遥かに多忙極める須藤を近くで見ていると、やはり健康である体作りは大切だと思うようになった。
いくら化け物並みの体力があるからといって、年もそう若くはないのだ。弊害も起きてくるだろう。須藤にはいつまでも健康でいて欲しい。そんな強い佑月の思いが通じたのか、時間の余裕があるときは必ず朝食を摂るようになってくれたのだ。
「ごちそうさま」
コーヒー片手に朝刊、経済紙を読む須藤を邪魔しないように、佑月は食器を片付け、軽くシンクで汚れを落としてから、ビルトインの食洗機に並べていく。後はスイッチを入れるだけの簡単作業。仕事へ出るまでにはかなりの余裕がある佑月は、いつもこの後はゆっくりと寛いでから、風呂掃除をする。
それまでは部屋に戻ってテレビでも見ようかとコーヒーを入れようとした時、腰に何かが巻き付き、その動きを封じられた。
「……仁。びっくりするから気配消して近付くの止めて欲しいんだけど」
佑月の細い腰に回された逞しい腕に、そっと手を置き、佑月は身体を反転させた。須藤の腕の中にすっぽりと収まってしまう身体。同じ男でも、こうも体格差があると、張り合う気力もなくなるというもの。
須藤は佑月の文句など聞こえてないかのように、佑月の細い顎を人差し指で軽く持ち上げた。その目は明らかに情欲が孕んでいる。
「ねぇ……こんなことしてる暇ないだろ?」
「こんなこととはなんだ。もう三日もお前を抱いていないんだ。抱かせろ」
「抱かせろって……ん……」
須藤は佑月の唇をゆっくりと舐め上げていく。そうされると、佑月の唇はその舌を受け入れようと勝手に開いていく。その開いた僅かな隙間に、肉厚な舌が更に抉じ開けるように侵入してくる。歯列をなぞり、上顎を執拗に責められると、佑月の息も上がり身体も火照り始める。
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