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第7話
佑月は須藤と一緒にシャワーを浴び、そして須藤の支度の準備を手伝う。手伝うとは言っても、須藤は全て自身で用意をする男。佑月がすることと言えば、ジャケットに腕を通す須藤を手伝うくらいだ。後は形だけのネクタイに歪みがないかのチェック。何に置いても完璧なくせに、こうして佑月に世話の真似事をさせて須藤は満足しているのだ。
「今日も決まってるね」
おちゃらけて、佑月は須藤の胸に手の甲でツッコミを入れるように軽く叩く。そんな佑月に須藤は軽く口の端だけで笑う。
普段は無表情で、冷酷にも見える顔。しかし佑月の前でだけ、その表情に柔らかみが増し、色々な表情 を見せてくれる。思わず見惚れてしまってることは秘密にしておきたいところ。
鞄を持ち、玄関へ向かおうとした須藤が、ふとといった風に佑月へと振り返ってきた。佑月はどうしたのかと目で問い掛ける。
「今日は定時で上がれるのか?」
「うん、急な依頼が入ってこない限り、定時で帰れる予定。どうかした?」
「二時間程の空きの時間が出来た。久しぶりに飯食いに行くぞ」
「え、本当に? なんか……すごく久しぶりだな」
「そうだな。時間が取れなくてすまない」
「ううん、それは仕方ないことだし気にしなくていいよ」
夜が遅い時が多く、日付を跨ぐのは常だ。だから少しの時間が出来れば須藤は会いにくるのだが、夜に出掛けるのは一ヶ月ぶりくらいになる。しかしやはり空きの時間が出来ただけで、仕事が終わるわけではないのだと分かると少し残念でならない。
落胆の顔だけは見せないように、佑月は何でもない顔をして須藤に微笑み、二人で玄関を出た。
「腰、大丈夫か?」
須藤は気遣わしげな目を佑月の腰に据える。本当は心配するくらいなら、朝からしなくてもいいだろと言いたいのを佑月は我慢する。結局は自分も流されていたからだ。
「……ちょっと辛いけどね」
「そうか……」
朝から盛って悪いとでも思ったのか、須藤は佑月の細い腰を労るようにさする。佑月は少しの擽ったさを感じ、僅かに身を捩った。情事の名残がまだ残る身体は、須藤に触れられると過剰に反応してしまう。それを誤魔化すように、佑月は須藤の広い背中を押した。
「大丈夫、ありがとう。今日は下まで見送るよ」
「珍しいな」
「真山さんとも最近顔合わせてないから」
「……ふぅん」
エレベーターに二人で乗り込むが、須藤の機嫌レベルが一つ下がったのを感じた。だが、佑月は気付かないふりをした。佑月と真山がどうこうなるわけでもないのに、佑月の口から他の男の名前が出る事が気に食わないようだ。
「おはようございます。須藤様、成海様」
「おはようございます」
広いエントランスホールで、コンシェルジュが須藤と佑月に挨拶をする。須藤は王様然として横柄に頷くだけだ。
港区の一等地に建つ、超高級マンションの持ち主である須藤は、ここの王様には間違いない。そんな須藤に、愛想よく応対しろと言うのは難しいことなのかもしれない。そもそも須藤という男は、傲岸不遜を絵に描いたような男だ。しかしそうでなくては、三十六という若さで裏社会は渡ってはいけない。そんな闇をも背負った広い背中は、佑月は惚れた何たらで大きく見えるのだ。
「真山さん! おはようございます」
マンションの玄関前に止まっている超高級車マイバッハ。迎えに来た真山は車体の後部で姿勢良く立っている。佑月は極上とも言える笑顔で、須藤の傍らから前へ進み出た。普段はロボットのように冷たい無表情の真山も、佑月の笑顔に僅かに目を見開いていた。
「……ボス、成海さん、おはようございます」
「おひさ……ムグ……」
佑月が再び口を開いた時、いきなり顔が何かに覆われた。
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