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第17話
「ウソ、本当にご友人から? 何だかいかにも恋する顔! ってなってましたよ。甘い空気の中で、少しの切なさがあって。見てるこっちまで切なくなりましたよ」
さすが名俳優と称されるだけあって、人の空気には敏感だ。探るような目には鋭い光が宿っているが、ここで肯定するわけにはいかない。
「そんな相手がいればいいんですけどね。それよりも現場はどの辺りなんでしょうか」
「あ……あぁ、それはここから車だとニ、三十分くらいですかね。今のドラマの撮影で使わせてもらった倉庫なんですよ」
佑月の強引な話題転換に驚きつつも、支倉はしつこく訊ねることだけは避け、佑月の質問に答えた。
「倉庫ですか……」
どれくらいの広さがあるのか。ドラマで使ったとあれば、かなりの広さなのではと、佑月は少し唸った。マネージャーとも探して見つからなかったぐらいだ。そう簡単に見つかるとは思えなかった。相当の人数を用意しなくては困難を極めそうだ。
「あの、今さらなんですが、私一人で大丈夫なんでしょうか? もっと人数を増やした方がいいと思うのですが」
「あー……そうなんですけど、ほら、こんなこと一般の方には知られたくないですし。時間も三時間だけと限らせてもらいますので。それで探しても見つからなかったら、ちゃんと謝罪はするつもりです」
「そうですか……。分かりました」
今日中に見つかればいいが、三時間という短い時間で探すのは、ほぼ不可能に近い。だがまだ現場を見たわけではないから、着くまでは分からない。
都内の喧騒から離れ、少し走るとそれは見えてきた。だだっ広い場所には鉄筋や木材、工事車両がある。ドラマのためのセットではなくて、本物の資材置き場のようだ。
周囲は異様な静けさだ。肝心の倉庫は百平米くらいだろうか。決して小さいとは言えないが、想像していたよりは幾分マシに思えて、佑月はホッと胸を撫で下ろした。
「ドラマって屋内でのスタジオですることが多いように思うんですけど、わざわざここまで来られたんですね」
車を降り、二人で倉庫内へと足を入れる。
「今、刑事役をさせてもらってるんですけど、臨場感に拘る監督でして、わざわざこちらを借りて撮影させてもらったんですよ。違法取引の現場を押さえて犯人逮捕までの攻防戦! 銃撃戦を交えての芝居だったので楽しかったです。でもその激しい動きだったせいで、ポケットに入れていた指輪を落としたんですよね……」
「なるほど……」
一瞬、数ヶ月前の出来事が佑月の頭に過り、胸に痛みが走った。だが直ぐにそれを追い払うように軽く頭を振る。
(今は仕事中だ。余計な事を考えるな)
佑月は倉庫内に視線をぐるりと一周させた。資材が沢山あるせいか、然程広くは感じられなかった。
「この間は入口辺りを見たので、今日は奥を見てみようかと思うんです」
「はい」
支倉に案内され、倉庫の一番奥手となる場所まで来たが、外の光は奥までは届かず薄暗い。近くには長さニメートル程はある単菅が立て掛けてある物と、横に積み重なってる物とがある。他は何かの資材にブルーシートが被せられているものがあるが、比較的探すのに苦労はしなさそうなものだった。
「それでは成海さんはここを探してもらってもいいですか? オレはあっちの奥を探すので」
「分かりました」
佑月が了承すると、支倉は奥の角から探すようで直ぐに足を向けて行った。早速佑月も探し始める。周囲は薄暗いが、窓が等間隔にあるお陰で懐中電灯までは必要とはしない。地べたに膝をつけ、ハイハイするように少しずつ移動しながら隈無く探す。出てくることを強く願いながら。
「あ!」
木材が積まれた場所。その横の隙間に光る物を見つけ、佑月は嬉々として腕を突っ込みそれを掴んだ。が、それは直ぐに落胆へと変わる。
「なんだ……違うか。ナット……紛らわしい」
開始してまだ五分程度。簡単に見つかるという奇跡は起こらないということだ。今一度気合いを入れ直した時、佑月はふと背後で何かの気配を感じ、何となくと振り返った。
「っ……!?」
驚愕に見開く佑月の目に〝それは〟スローモーションで自身へと向かってきていた。だが実際には立ち上がって逃げる間もない、ほんの数秒。佑月は身体を捻ることしか出来ない中、走馬灯のように頭に過るものがあった。
──仁……。
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