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第18話

──頭が痛い……。    割れるように痛い。頭だけじゃない。全身のあらゆる場所が軋むように痛む。  そして何か不明瞭な音がずっと佑月の頭の中で反響している。恐らく人の声だろう。何か必死なことだけは分かる。その声をちゃんと聞きたくて佑月は必死に耳を澄ますが、まるで自分が深い水中にいるかのようで、どうしても聞き取れない。  手を伸ばしたくても何かに邪魔をされ動かせない上に、痛みが更に動きを制限してくる。今自分が何処にいて何をしているのかも分からない。何もかもがあやふやで、佑月の焦燥は募るばかりだった。  早くこの恐ろしい所から脱け出したい。そんな強い思いで、佑月はまだ痛みが軽い右手を何とか動かそうした。  その時、柔らかく、かつ力強い何かが佑月の手を包んできた。佑月はそれを希望だと感じ、すがる思いで僅かに握り返した。 「──さん!」 「──ヅ!」 「──づき──い!」  全く聞き取れなかったものが少しずつ佑月の耳に届く。もっとその声を聞かせて欲しい。自分に差し伸べられる救いの手。漆黒の異空間から逃れるためには、この手を離してはなるものかと、佑月は必死の思いで強く握り、重い瞼を上げた。  僅かな光だが、散々暗闇にいたせいか刺激が強く、佑月の眉間には深いシワが刻まれる。  だがやっと闇から解放されることが、何よりも佑月をホッとさせた。そして自分を覗き込むような影がぼんやりと佑月の目に入る。それが徐々にクリアーとなり、しっかりとその姿を認識することが出来た。 「ぅ……ん……花……ゃん……りく……かい……はや……て……?」 「成海さん! 良かった! 良かったよぉ……」 「ユヅ!!」 「佑月先輩!!」  花は佑月の手を握りしめ、号泣し始めた。きっとそれよりも前から泣いていたことが分かる程に、花の目と鼻は赤くなっていた。そして颯、陸斗と海斗の目も僅かに赤くなっている。  しかし佑月には、何故この四人が、こんなにも窮地から救い出されたかのような表情をしているのかが解せなかった。深い絶望からの安堵といえば良いのか。そして意識がはっきりするほどに襲う全身の激痛。佑月は思わず痛みで呻いた。 「あ! ごめんなさい」  花が慌てて佑月の手を離す。佑月は花に微笑みながら首を振るが、この耐え難い痛みは何なのかが理解出来ず、佑月は必死に頭を働かせながら、室内を見渡した。洗面台やトイレらしきもの、そして何よりも愕然としたのは、佑月の右側には点滴が吊り下がっていたことだ。 (まさか……病院? なんで?)  そして自身の身体へと目を遣ると、左腕の前腕が頑丈に固定されていた。嫌でも骨折をしていると分かる処置だ。そのことが佑月に少しのパニックを引き起こさせる。起き上がって全身を確かめようとすると、四人が慌ててそれを阻止してきた。だが四人が止めるまでもなく、頭の激痛で佑月には起き上がることは不可能だった。 (どう……なってるんだ? 俺はなんでこんなケガを……) 「ユヅ頼むから安静にしてくれ……」 「そうですよ先輩……。ムリに動かないでください」  既に泣いている花と、いまにも泣きそうな三人の顔。佑月はそんな四人をじっと見つめるが、不意に何か言い様もない違和感を強く感じ始めた。いつも見慣れているはずの四人。颯、陸斗と海斗は何か〝男〟としての精悍さが増し、逞しいとでもいうのか、僅かな見た目の変化と雰囲気に佑月は戸惑った。花もそうであった。随分と女性らしい顔つきになっている。 「花ちゃん……」 「はい。水飲みたいですか?」 「ううん、ありがとう。そうじゃなくてね、髪、エクステか何か着けてるの? 髪が長いと、雰囲気が変わるね」 「え……?」  花が困惑した顔で固まった。佑月は聞き取りにくかったのだろうかと再び口を開きかけた。  そのとき、病室のドアが勢いよく開いた。

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