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第20話
そんな時、重い空気を引き裂くかのように病室の扉が開いた。
「成海さん、目が覚められましたか?」
颯らの間を縫うように医師が病室に入ってきた。男は椅子から腰を上げて、医師に場所を譲る。
「痛みなどはどうですか?」
四十代後半くらいの優しい面立ちをした男性医師は、佑月の顔を覗き込みながら訊ねた。
「頭……とにかく全身が痛いです」
医師に嘘をついても仕方ないと佑月が正直に答えると、医師はうんうんと同情するように頷く。
「頭は十針縫いましたからね。頭部は出血も多くなるので、あと少し運ばれるのが遅かったら危なかったですよ。左の前腕は骨折して骨がずれてしまってたので、経皮ピンニング術という簡単な手術で固定しています。後は全身の打撲と、左足首は捻挫。肋骨も少しヒビが入ってます。痛いのは当然ですよね……。痛みは絶対に我慢しないでください。鎮痛剤は後程出しておきますが、後で痛み止めの注射をしておきますね」
ゆっくりと丁寧に説明してくれる医師だが、頭を縫っているという自分の容態に佑月は衝撃を受け、途中からほぼ耳には入ってこなくなっていた。どうりで激しく痛むわけだ。
「それで、成海さんにはご家族がいらっしゃらないとお聞きしましたが、色々お話したいことがございまして……」
「俺が聞こう」
男が医師にそう告げると、医師は一瞬男の気高い空気と身なりに気圧された様子だったが、直ぐに笑顔で男に頷く。
そして徐に男は佑月へと大きな身体を屈め、耳元に口を寄せてきた。佑月は驚きと緊張で固まってしまう。
「俺の名は須藤 仁だ。覚えておけ」
「す……どうじん?」
「あぁ」
男は少しだけ口の端を上げると直ぐに身を翻し、医師と共に病室を出ていった。付き人二人も佑月へ頭を丁寧に下げてたから部屋を後にしていく。
「須藤……仁」
もう一度佑月は口に出してみるが、名前を聞いても、一年前に依頼で受け持った客にその名前はなかったように思えた。
「佑月先輩……本当に須藤さんのこと分からないんですか?」
陸斗が佑月に訊ねると、颯と海斗は沈痛な面持ちの中で、何処か佑月が冗談だと言ってくれる事を期待しているように見えた。その中で花だけは全てを理解しているかのように、一人深く沈んでいる。
「というか……みんなが知ってることに俺は驚いてるんだけど……。一年前なんてそんな前でもないのに、覚えてないとかおかしいだろ? それに、このケガだって……なんで覚えてないんだ俺は。確か……高田さんって方から預り物があって、その帰りまでは覚えて──」
「ちょ、ちょっと待って下さい! 高田さんの預り物って?」
何やら急に焦ったように、陸斗は佑月に被せるように問う。何をそんなに驚くことがあるのかと、佑月は怪訝に思った。
「えっと、高級ライターだと思ってた物が実はUSBだったんだけど……鞄に入ってるはずだから確認してもらってもいいか? そもそも鞄はちゃんとあるのかな? あればいいけど、無くしてたら大変だ……。こんなケガをしてるくらいだから交通事故にでも遭ったんだよな? その時に鞄の中身がぶちまけられてたら……」
佑月は心配で一気に話すが、颯ら四人は別の事で困惑しているようだった。佑月はそんな彼らに、訝しげに視線をやる。
「USB……高田……」
「それって……」
陸斗と海斗の顔色が悪くなっていく。
「佑月先輩、因みに今日の年月日を答えてもらってもいいですか?」
「年月日……? えっと、年は二〇一七年。それで今日は確か四月十七日……じゃないのか?」
陸斗の問いに佑月は答えながら、何かおかしいことにようやく気付き、ベッドに貼り付いた背中に沢山の汗をかく。そして、四人には緊張が走っている。
「ユヅ、これを見ろ」
颯は徐にスマホの画面を佑月へと見せてきた。
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