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第25話
「それはお前に合うタイミングを見て、少しずつ返していく。心配するな」
何の根拠もないのに、堂々と言いきってしまう須藤に、佑月は少し可笑しくなり笑ってしまった。そんな佑月を須藤は優しい面差しで見つめていた。
「須藤さんっておいくつなんですか?」
「三十六だ」
「え!? 三十六!」
佑月の驚きの声が狭い個室に広がる。
「なんだ、その驚き様は」
「いや、だって、何て言うのか、見た目は若そうな感じですけど、雰囲気が何て言うのか……えっと、どう言えば……」
「分かったから、一旦落ち着け」
呆れたような口振りながらも、どこか愉快そうな須藤に佑月は頬が熱くなるのを感じた。
「すみません。ただ歳が十も離れている貴方と友人というのが、なんかビックリしてしまって」
「友人になるのに、年齢など関係ないだろ」
「あ……そうですね。すみません」
「謝ってばかりだな」
「本当ですね……すみません……あっ」
ここで佑月は堪らず一人で笑ってしまう。そして、はたと隣を見れば、須藤はとても安心したような穏やかな顔をしていた。佑月をとても心配していたと分かる顔。須藤は思い出すことを無理しなくていいと言ったが、佑月自身が思い出したくて仕方なくなった。
重厚な空気を纏い、気品さが際立つ中で、何かとても危険な毒を孕んでる。そんな怪しくも魅力溢れる男。そんな男がここまで自分を心配してくれるなど、友人と言ってもそれなりに仲を深めていないと有り得ないだろう。
「俺と須藤さんが出会ったのは、貴方が依頼したからだと聞いたんですが、一体どんな依頼をされたんですか?」
「食事に誘った」
「食事……?」
依頼で食事に誘う。女性である花ではなくて、なぜ自分なのかと佑月は首を傾げた。
「何で俺を誘ったんですか? うちには女性もいるのに」
「気になるか?」
須藤が僅かに佑月へと身を寄せる。どことなく、意地悪気に須藤の口の端が上がっている。そう、まるでニヤニヤとしているような。
無表情に近いのに、何故か佑月はそう感じて須藤から距離を取った。
「い、いえ。別に気になるってほどでは……」
「嘘をつくな。顔に書いてあるぞ」
「そ、そんなに見ないでもらえますか? さすがに恥ずかしいんですけど」
冷たく感じる無表情だが、眉に目、鼻、口の配置、顔の形、全てが美しく整う造形。そんな綺麗な顔で見つめられれば、相手が男であっても、妙に落ち着けなくなる。
佑月はチラリと須藤へと視線を上げた。瞬間、佑月の鼓動が一つ大きく跳ねる。
優しい表情ながらも、どこか憂いを帯びた顔。この表情をどこかで見たような気がする。だがそれは、遥か遠い場所で、かつ頑丈な扉の奥にあり、そこから引っ張り出すのは今の佑月には困難であった。
「どうかしたか?」
「あ、いや──」
「す、すみません……失礼します」
不意に扉が開き、中に入ってきたのは若い女性の看護師。手にはポットが持たれている。
とても可愛らしい顔をした看護師は、佑月をチラチラと見ては頬を赤く染めている。チラチラと見られているせいで、佑月は困ったように笑うが、彼女には極上の笑顔に見えたのか、ついには顔が真っ赤になってしまった。
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