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第26話

「あの、お茶をお持ちしたので、飲んで下さい。左手が不自由でしょうし、場所はこの辺りで──」  看護師はここで初めて須藤の顔を見たのか、驚き固まってしまっている。その目は佑月から見ても、見惚れているということがよく分かるものだった。  当の須藤はというと、熱視線を向けられているのにも関わらず、看護師を一瞥もしない。というよりも存在すらも気付いていないかの様子を見せている。  自分に全く興味を持たない須藤に、若い看護師はなぜか佑月に救いを求めるような目を向けてきた。そんな目を向けられても佑月も困る訳だが。 「佑月、茶飲むか?」 「え? あ、はい。飲みたいです」 「あの、お茶なら私が入れますよ! ご友人の方も飲まれます?」  看護師は明らかに須藤に声を掛けている。それにも関わらず、須藤は看護師を一度も視界に入れない。 「あの看護師さん、彼が後で入れてくれるようなので、お気持ちだけで」 「そう……ですか」  佑月がフォローを入れるも、看護師はかなり沈んでしまっている。  殆どの人間は第三者が現れれば興味を引かれたり、どんな人間なのかを確認するために視界に入れるものだ。声を掛けられたならば尚更だ。それなのに須藤のこの無関心っぷりと言ったら。佑月は逆に感心してしまっていた。  若い看護師は諦めたように、佑月に頭を下げてから、そそくさと出ていった。  最後まで須藤は看護師を一瞥もしなかった。ここまで他人に無関心な男が、誰かに夢中になったりするのだろうか。執着するほど胸を焦がす人間が。  佑月は須藤が入れた茶を飲みながら、須藤を盗み見する。 「なんだ?」 「え?」 「何か言いたげだな」  看護師の視線には気付きもしなかった男が、佑月の盗み見には直ぐに気付く。 「あの……須藤さんって恋人はいらっしゃるんですか?」  佑月の問いに須藤が少し笑ったように見えた。呆れられたのかと思い、佑月は踏み込み過ぎたかと反省する。 「すみません。調子に乗りました」 「何を謝ってる。恋人なら、いる。大事な人間がな」 「そ……そうなんですね」  佑月は自分で聞いておきながら、驚いてしまった。  正直、須藤には恋人はいないと思っていた。その日限りの女性を幾人か侍らせている。そんなイメージの濃い須藤が、恋人を甘やかしたり、または甘えたり、はたまた〝愛してる〟など、睦言を交わし合うなど想像も出来ない。先ほどの面を見ているから余計にそう感じてしまう。  失礼な話だが、須藤という人間の真の部分を知らないため、佑月は勝手なイメージを持ってしまっていた。 「そんなに驚くことか?」  須藤は足を組み換えると、少し佑月へと距離を縮めた。

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