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第42話《Background》2
男……凌平の顔色は益々と色を無くしていく。まさかバレるとは露ほども思っていなかったのだろう。何かを訴えるように、凌平はゴボゴボと口から血を溢れさせながら、声にならない声を上げていた。
須藤の凌平を眺める目には憎悪が滲んでいる。こんな須藤を見るのは真山や部下らも初めてだった。
他人の生死にはまるっきり興味を示さない。裏切りにあっても淡々とその者を処分する。そこに私情を挟むことを全くしないのが須藤だった。それが大切な人間に出会い、ここまで感情を顕にするほどに変わった。それはある意味、凄味が増しているとも言えた。
部下らが加える暴行に、凌平の呼吸もほぼ虫の息だ。綺麗な顔は原型を留めていない程に腫れ上がり、見るに堪えない姿となっている。
「そいつの利き手の手首を落として、父親に送り付けておけ」
「はい」
須藤の命令に部下は顔色一つ変えずに、主人の命令に従う。
「す……すどーさ……まってくださ……。はなを……はなしを……きいて……さい」
恐怖で引き攣った凌平の顔。震えで歯がガチガチと鳴っているのも鮮明に聞こえる。顔を殴られすぎて滑舌も悪くなっている。
「オレは……ずっとあにきの……かげだったんで……人目をしのんで……おもてにさえでられ……」
「黙らせますか?」
片目が完全に潰れた状況の中で、凌平は必死に須藤だけを見つめて訴える。しかし須藤の部下は、無情さとも言える冷たい声音で主人に問うた。須藤は答えることも億劫だと、ただ黙って廃材の上に腰を下ろす。それを了承の意と捉えたのか、凌平はホッと肩から力を抜いていた。
「そんなとき……あなたと、であったんです。あなたのおとこ……らしさ、うつくしさ、すべてに……こころをうばわれた。あなたにもっとちか……づきたい。しってもらいたい。だからチャンスがあれば……どこにだって……かけつけた。それなのに……」
凌平は震える唇を更に戦慄 かせる。半分ほどしか開かないもう片方の目の眼光は、ここにはいない〝誰か〟を睨みつけるかのように鋭い。
「あなたに……にあうおとこ……になるために……ひっしに、がんばってきた! どうしてオレをみてくれないんですか!?」
裏の世界にいれば自身の存在をアピール出来るとでも思ったのか、廃墟には悲痛な叫びが響き渡る。それもただ虚しく響き渡るだけだった。
「心得違いも甚だしい」
須藤の傍らに立つ真山が珍しく言葉を発する。須藤はそんな真山をそっと見上げた。
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