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第43話《Background》3

 無表情であることに変わりはないが、怒り、苛立ちの空気がメラメラと湧き出ている。佑月を特別な存在として認める真山にとっても、目の前の若造が憎くて仕方ないのだろう。重傷を負わせ、挙げ句記憶までもを奪った。恐らく真山自身が手を掛けたいと思っているに違いない。しかしそれは真山がでしゃばる事ではないと、本人が一番よく理解しているはずだ。  須藤は拳を握りしめる真山から視線を外し、まだ何かを叫んでいる凌平に目を向けた。 「ずっ……ずっとあなたの……ことが……あなただけが……すきなんです」  泣き叫びボロボロになった凌平の顔。己の気持ちばかりを叫び、佑月に対して一言の謝罪もない。あったとしても許すことはないが、これでは須藤の心証を更に悪くするだけだった。 「月山」  須藤の部下である月山という男は、モンスターのように大きな男だ。丸太のような太い腕で首を抱え込まれれば、一般の成人男性の首はいとも簡単に折れてしまうだろう。  ボスである須藤に名を呼ばれ、月山は無表情でこくりと頷いた。  その意図が分かったのか、凌平は更に身体を震わせた。 「ま……まってください……すどーさん! オレのてくびを……おやじにおくったって……あの……ひとは……なにもかんじない。だいじなのは……あにきだけなんだから」  負傷した身体のダメージは大きく、身動きもままならない中で凌平は必死に須藤へと懇願し、すがりつく。  しかし須藤は凌平には一瞥もせず、背中を向けてそのまま建物から外へと出た。  自分の事しか考えない人間を、須藤はこれまでも沢山見てきた。いや、須藤の周りではほぼそんな人間ばかりと言っても過言ではない。  そして須藤自身も、周りの人間がどうなろうとも自分さえ良ければいいという考えの男だ。だから他の人間がそうであっても、自身に不利益さえ被らなければ気にもしない。  それが佑月が関わると、こんなにも腸が煮えくり返る。もう少しあの場にいれば、須藤は凌平を間違いなく殺していただろう。  須藤は自身を落ち着かせようとするかのように、まだ冷たさが残る山の空気を吸い込み、ゆっくりと息を吐き出した。  それと同時に断末魔の叫びのような悲鳴が、静かな山中へと響き渡っていった──。

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