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第44話《Backstage》(※残酷描写あり)
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「頭 ! 大変です! 表に……と、とにかく来てください」
朱龍会の事務所内。若頭である桐谷の部屋の扉が忙しなくノックされる。桐谷は眉根を寄せながらも、若中 の慌てようが尋常ではない事に神経を尖らせた。
「なんだ……これは」
朱龍会の事務所は、コンクリート打ちっぱなしの二階建てだ。夜の玄関先に、人間のようなものが転がっている。ヤクザである桐谷にとって、惨い状態の人間は何度も見てきたことがある。その度に目を背けたり、特別驚くことなどした事がなかった。しかし目の前の人間は、あまりにも惨たらしく、桐谷は思わずと息を呑んでしまっていた。
倒れている人間は、虫の息だが一応生きているようだ。そして服装と体格で性別が男と分かるだけで、顔は原型が分からない程に腫れ上がっているため、何処の誰かが不明だった。身体も見える所は全て、生々しく酷い傷が付いており、左腕は有り得ない方向を向いている。おそらく見えない所もやられているだろう。内蔵が破裂していても不思議ではない。そして男の右手は手首から落とされており、おざなりに布が巻かれている。
「か、頭!」
若中が心配するなか、桐谷は男の傍らに腰を落とすと布を剥がした。
「……」
周囲で状況を見守っている若中連中から、息を呑む気配がした。
手首の切断面は焼かれて止血されている。その断面はギザギザで、切れ味の悪い刃物で切られたことが分かる。これは男に苦痛を与えるためにだ。
「……こいつは誰なんだ」
桐谷は何か男の素性が分かる免許証などが無いか、ジーンズのポケットを漁った。すると手に何か、紙切れのようなものが触れた。桐谷は紙切れを取り出すと二つに折られた紙を開く。
「っ……」
桐谷はあまりの衝撃に一瞬言葉を無くした。
「頭? どうかされ──」
「今すぐ医者へ、松本さんの所へ運べ。急げっ!!」
「は、はい!」
桐谷の命令で、若中は状況が把握出来ない中でも直ぐに動く。車を用意すると速やかに男を後部座席に乗せ、桐谷はその隣に乗った。
「早く出せ!」
「はっ」
桐谷の心臓がこんなにも速いリズムを刻むのは、初めてなくらいだ。自身の隣で横になる男を見つめ、桐谷の胸がズキリと激しく痛む。
そっと髪に触れ、頭を撫でてやる。このボロボロに成り果てた男は桐谷の息子だ。息子と言っても血は繋がっていない。
周囲にひた隠しにしてきた息子は、今や絶大な人気を博す俳優、支倉 恭平の双子の弟だ。そして血の繋がった本当の父親は、恭平が所属する事務所の社長をしている。
双子として生まれたばかりに、凌平は数奇な人生を送る羽目となった。それもこれも二人の親である支倉 正親と、桐谷 豪の都合のいい様に扱われているせいでだ。
芸能界は輝かしい反面、汚れた世界でもある。陰での酷な人脈作りに、表で活躍する恭平を汚したくない正親は、凌平を代わりに〝支倉 恭平〟として接待などさせていた。そして桐谷自身も、凌平には普段からは特殊メイクなみの変装をさせ、素顔を晒すことを禁じてきた。その代わり、どんな悪さをしても尻拭いはしてやってきた。それで罪滅ぼしが出来ているとは思っていないが、それが桐谷なりの思いやりでもあった。
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