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第46話

◇  痛みはまだ完全に引かないが、一日一日と身体が一生懸命回復しようと頑張っている。佑月はそれをひしひしと感じていた。テレビをつける時でさえ、痛くて堪らなかった腕も、かなり動かせるようになった。リハビリのお陰でもある。 「あ……この俳優」  シアターも楽しめるほどの大きなスクリーンに映し出されているのは、今人気沸騰中の俳優、支倉恭平だった。  少し長めの前髪が、目を隠すように額に落ちている。項垂れるように下を向き、多くの報道陣に囲まれている支倉は終始暗い顔をしていた。  そうなってしまっているのは、報道されている内容が決して明るいものではなかったからだ。情報番組のコメンテーターらは、辛辣な言葉で彼を責めている。 「なんか一方的に責められるのって気の毒だな……」  少しの不憫さに、佑月の眉間には少しのシワが寄る。 「おはようございます」  理学療法士の村上が部屋へと入って来て、佑月へと笑顔を見せてから、直ぐに渋面を作った。  「あ、これって朝から凄いですね」  村上がテレビの内容について言っていることは明確で、佑月は同意するように頷いた。 「支倉恭平もとんだ災難ですね……。まぁ、もし本当はグルだったとすれば、それはダメージもかなり大きいですけど」 「ですね……」  報道されているものは、支倉恭平が双子であった真実を含め、支倉恭平の背後関係が大きく取り沙汰されていた。その背後関係には佑月も眉を顰めたくなるものだった。  支倉恭平が所属する事務所は、支倉の父親である支倉正親が運営する、最大手プロダクションだということは有名だ。その事務所前にも、多くの報道陣が詰めかけている。  正親がヤクザと関わりがあるという、衝撃的な内容のためにだ。報道陣から真相を求める沢山の声が上がっている。  そして恭平の弟である凌平は、朱龍会の若頭、桐谷豪の養子だと騒ぎにもなっている。表舞台の兄とは正反対に裏の世界で暗躍し、薬を売り捌いたりと犯罪に手を染めているとも。正親との関わりがあるヤクザとの関連も、この先の捜査で明るみになるだろうと報じている。 「なんで急にこんな事が出回り始めたんでしょうかね」  村上が呟くのを、佑月は苦笑いを混じえて首を僅かに傾げながらも、何か妙な感覚に囚われていた。それが何なのかは全く分からない。〝須藤〟と同じで肝心な部分がすっぽりと抜け落ちている。そんな感覚だった。 「あ、成海さん、あと一週間ほどすれば、部屋から出てもいいと先生の許可もらったので、外の空気吸いに行きましょう。ずっと部屋じゃ気分も滅入るでしょうし」 「はい。ありがとうございます」  佑月はホッと安堵の笑みを村上へと向けた。村上の顔が少し赤いことが気になったが、直ぐにリハビリを始めたことで、佑月は開きかけた口を閉じる。  歳が近いこともあり、退屈な入院生活の中で、村上と過ごす時間はリラックスができ、佑月にとっては唯一の楽しい時間となっていた。  そして話題が変わったことで、支倉恭平のスキャンダルの件で違和感を感じていたことは、すっかり忘れてしまっていた。  昼過ぎに陸斗が単身で見舞いへと訪れてきた。やはり身内のような存在である陸斗の顔を見れば、佑月はホッと出来た。 「佑月先輩、プリンは今日までのものだから、おやつの時間にでも食べて下さいね」  冷蔵庫にプリンを入れ終えた陸斗は、にっこりと佑月へと微笑む。佑月は笑みを返しつつ、直ぐに眉尻を少し下げた。 「いつも本当にありがとうな。でも今度からは手ぶらで頼むよ」 「あ……プリン飽きました? すみません」  慌てたように頭を下げる陸斗に、佑月も慌てたように無事である方の右手で手を振った。

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