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第47話
「違うよ、陸斗。プリンは好きなの知ってるだろ? それに毎日違う物を持って来てくれてるんだし、飽きようがない。ただ俺は、顔を見せてくれるだけで本当に嬉しいんだよ。でもここは遠いし、仕事も任せっぱなしな状態だからさ、これ以上負担かけたくない」
「先輩、オレらは来たくて来てるんです。それに色々刺激あった方が思い出す事もあるかもしれないし。というか、負担かけたくないとか、任せっぱなしって言ってますけど、先輩ここで仕事してるじゃないですか。事務のことからオレたちの管理まで。ゆっくりして欲しいのに」
「いや。それくらいはしないと。病気じゃないんだし、リハビリのお陰で右手は問題なく使えるし、パソコン使うくらい支障もないしね」
佑月は大丈夫なことをアピールするために、右手をブラブラと振って見せると、陸斗は幾分安心したように笑った。
そして明日からは手ぶらで来るので、毎日顔を出すことは譲らないと陸斗が宣言したとき、病室の扉がノックされた。
「誰でしょうかね? 海斗らは仕事だし、須藤さんならノックなんてしないだろうし……」
陸斗が小声で佑月へと訊ねるが、佑月にも心当たりはない。それよりも須藤ならノックはしないと言った陸斗の言葉に、佑月の胸が妙にざわついた。陸斗は佑月の記憶がない間の須藤を知っている。それは当然のことなのに、悔しさと羨ましさとが綯い交ぜになったものが胸を巣食い、佑月を戸惑わせた。近しかったであろう相手を、忘れてしまった焦燥が再び頭を擡げ始めたとき、それを打ち消すように病室の扉が開いた。
少し開けて、遠慮がちに中を窺っているのは二十代後半程の男だ。
「刑事……」
陸斗が嫌そうに低い声で呟く。佑月も相手が分かると、やはり少し気が重くなった。
「すみません……。少しの時間よろしいですか?」
今まではいちいち窺いを立てることはなく、当然といった厚顔で部屋へと入ってきていた。それなのに珍しいと、佑月が怪訝に思いつつ頷くと、入ってきたのは土居という刑事1人だけだった。
「今日はお一人なんですか?」
佑月が土居の背後を伺うように訊ねると、土居は恐縮したように頭を下げた。
「はい。今日は私、単独で来させて頂きました」
土居とコンビで動いてる年嵩の男、上村がいないと土居は少し心許ないが、何か大きな決意でもしてきたかのように、緊迫した空気を纏っている。それは何かあったのかと、佑月の緊張を高まらせるのには十分であった。
佑月が思わずと息を呑んだとき、不意に土居が勢いをつけて佑月へと頭を下げた。それには陸斗も驚いたのか、目を見開いていた。
「申し訳ございません」
頭のてっぺんを佑月へと見せ、暫く顔をあげない土居に、佑月は陸斗と目を合わせ首を傾げた。
「あの、土居さんでしたよね? 突然謝られても困るので、まず理由を教えてください」
「あ! そ、そうですよね……。失礼しました」
土居は少しばつが悪そうに咳払いをしてから、直ぐに気を引き締めるように背筋を伸ばした。
「実は昨日突然、捜査の打ち切りの通達がきたんです」
「そうですか」
佑月はさほど驚きはしなかった。その佑月の反応に、土居が逆に驚いたように僅かに目を見開く。
被害者が死亡したならば警察も本腰入れをするだろうが、生きていると警察もこんなものだ。最後までしっかりと捜査をしてくれる警察はどれくらいいるのか。しかしそれにしては、打ち切られるには少しどころか、かなり早すぎるようにも思えた。何かの力が働いたのか、そう思わざるを得ない。
その後土居は何度も佑月へと頭を下げて帰って行った。
「警察がわざわざ知らせに来るなんて……あの土居って男はきっと昇進出来ないタイプですね」
「そうだね。でも俺は土居さんのような刑事は好感持てるかも。それよりも気になるのは何で打ち切られたのか……」
土居に聞いたところで内部のことまでは喋らない。お陰でモヤモヤとスッキリしないものを置いていかれはしたが。そう呟く佑月の目に映った陸斗は、何か知っているのか少し右眉を跳ねさせていた。
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