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第48話
「陸斗……何か知ってるのか?」
「え? あ……いや、知ってるというか……」
妙にはっきりとしない陸斗に、佑月の訝しく思う気持ちも大きくなる。
「どっち?」
佑月は少しベットから背中を浮かせ、陸斗の目を覗き込んだ。すると陸斗は観念したのか軽く息を吐いた。
「その、知ってるとはまた違うんです。でもきっとそうなんだろうなというオレの勝手な推測で」
「うん、それで?」
観念したように思えた陸斗だったが、妙に歯切れが悪い。何かに遠慮でもしているのか。こんな陸斗は珍しい。そう感じつつも佑月は逸る気持ちを抑えられず、先を促す。
「たぶんですけど、須藤さんが絡んでるんじゃないかと……」
「須藤……さん?」
「はい。オレが思うには須藤さんが犯人を見つけたと思ってます」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。犯人を見つけた? それならさっき土居さんが言ってたことがおかしいじゃないか」
犯人が見つかったなら【打ち切り】ではなく【解決】だ。そこで嫌なものが佑月の中に巣食い始める。
「陸斗。正直に答えてくれ。あの人は本当は何者なんだ?」
「先輩。それは前に颯さんが言ったって言ってたから、聞いたと思うんですけど……」
「うん聞いたよ。高級クラブ経営や不動産業界やら手広く仕事をしてるって。でも、ヤクザではないかもしれないけど、彼は普通だって言えるのか?」
警察を出し抜く力というのは、それなりの裏の繋がりがないと不可能なことが多い。やはり警察が須藤を知っていた事が、そこに繋がるのでは。現に上村という刑事がその須藤を『怪物』と呼称していた。ただの一般人でないことは明確ではないのか。
佑月の中にあった燻りが益々と大きくなっていく。
「佑月先輩。先輩は須藤さんがオレと同じく、裏の人間との関わりがあったら、関わるのをやめるんですか?」
そう切り出した陸斗の顔は、妙に気迫に満ちていた。
「それは……陸斗らとはまた違うだろ」
「何が違うんですか? オレと海斗はどう足掻こうともヤクザの血が流れてます。稼業に興味が無いって言っても、家族に何かあればオレらは家族を助けます。だからヤクザとは切っても切れないんです。そんなオレらでも、佑月先輩は変わらずずっと友人でいてくれてますよね。それはオレら自身を見てくれてるからじゃないんですか?」
「そうだよ。陸斗と海斗の家がヤクザだからとか、そんな境遇なんてものは関係ない。俺にとって2人は大切な友人だよ」
確かに初めて聞いた時は、正直に驚いた佑月だったが、彼らの本質というものをしっかりと目にしてきた。極端なことを言ってしまえば、彼らが悪魔だったとしても、友人であることに変わりはないと断言できる。
「だったら──」
「でもな、俺はあの人の事を忘れてしまってるんだ。これまで培ってきた絆があったんだろうけど、今の俺にはそれが抜け落ちてる。こんな風に言いたくはないけど、初めて会ったような人を陸斗らと同じように見ろってのはちょっと無理がある」
悪いけど……と佑月は小さく最後に零す。
「先輩……すみません。責めてるわけじゃないんです。ただ先輩は大勢の人とはあまり深く付き合っていくタイプじゃないでしょ? この人ならと先輩自身が見極めて、信頼出来る人としか付き合っていかない人だ。そんな先輩が、須藤さんとはオレらが割って入れないくらいの、深い付き合いをしてきたんです。その現実があるって事だけは忘れないで欲しいんです」
「陸斗……」
陸斗の真摯な目とぶつかり、佑月は二の句が継げなくなった。
陸斗の言う通りで、須藤とは例えばフィーリングか何か合うものがあって、友人となっているのだろう。そうでなければ、須藤のようなまるで人種が違う男と、同居までするとは到底思えなかった。それにふとした時に、須藤との時間で心が安らぐ時があったことも、佑月には無視出来なかった。
急に親密になるのは無理な話とはいえ、過去の自分を信じて、須藤のことを少しずつでも知っていくのも悪くないのかもしれない。そう考える佑月がいた。
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