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第54話

 この傲慢っぽさが〝らしい〟。ならばと不満を隠さず佑月は須藤を睨むように見据えた。すると更にその口角が上がる。 「何がおかしいんですか?」 「いや? お前はお前のままだと思ってな」  須藤が少し嬉しそうにしていることに意外に思いつつ、佑月は須藤の不可解なセリフに眉根を寄せた。俺が俺のままなのは当然なのではと佑月は思ったが、今はそれはどうでもいいことだと、切り替えるように小さく咳払いをした。 「須藤さん、犯人のこと何か知ってるなら教えて下さい。俺は当事者で被害者なんです。知る権利はあります」  そう言い放った後、須藤の纏う空気が変わった。冷やかで刺すような空気が佑月の肌を刺激する。 「自分の大事なものや、人間を他人に傷つけられては黙っていられないだろ?」 「……そうですけど」  脈絡も無さそうな返答に困惑しつつ、訊ねておきながら、これ以上は聞いてはならないという警告音が、不意に佑月の頭の中で大きく響く。  聞かない方がいい。聞けばきっと後戻りが出来なくなる。そんな恐怖がある中、何故自分が須藤と友人でいたのか、そのためには須藤という男を知っていくのだと、入院中に決意したことを思い出す。  この男とはどうやら切っても切れない強い絆があるようだし、それを拒絶するのではなく、また新たに向かい合えばいい。  例え今どんな事を知る事になっても、受け入れられるかは別として、一方的に須藤を否定することはやめておこうと、佑月は今一度決意した。 「佑月をこんな目に遭わせたんだ。代償を払うのは当然だ」  すっと伸びてきた腕。ビクリと佑月の身体が僅かに跳ねる。須藤は宥めるようになのか、指の腹で白い頬を優しく撫でていく。須藤は時々こうして、本当に大切なものに触れるかのように、佑月へと触れてくる。須藤の友人というポジションは、恋人が見れば恐らくいい気はしないはずだ。それほどに特別で濃密さが窺えた。 「代償……それは……」 「色々知ることになるぞ」  今の佑月にはまだ早いと、心配しているとも取れる須藤の問い。佑月の覚悟を問うているのだろう。  須藤の指が離れていくと、触れられていた箇所が仄かに熱くなっていることを感じながら、佑月はゆっくりと頷いた。 「ほんの数分前の自分なら聞きたくなかったです。でも今は貴方のことをちゃんと知りたいと思ってます」 「俺から離れるという選択肢もあるのにか」  佑月は思わずポカンと口を開けたのち、肩を僅かに揺らして笑ってしまう。須藤が心にも無い事を言っているのが分かったからだ。 「俺は貴方から離れられるんですか?」  佑月がわざとそう訊ねると、須藤の口元が不敵に歪む。 「いや、無理だな」  思っていた通りに即答だ。佑月の笑いは収まらない。 「だったら何でそんな事訊くんですか」 「逃げ道くらいは作ってやるフリはしておかないとな」 「……フリ」  ここまで明け透けに言われてしまえば、恐怖というものを感じなくなる。須藤が敢えてそうしたのかは定かではないが、佑月の緊張も解け始め、ついには声を上げて笑っていた。 「記憶を失う前の俺は、貴方のことをちゃんと知って、理解した上で友人として傍にいたと思います。だからちゃんと向き合わなきゃ貴方に失礼ですよね。そりゃ正直さっきまでは大きく戸惑ったり、気持ちの整理がつかなかったりと、悶々としてましたけど……」 「悶々と毎日俺のことを考えていたのか?」  何故かニヤつく須藤に、佑月は反射的に「か、考えてませんよ」と慌てたように言う。

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