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第60話

「ま、待って須藤さん」  シャツのボタンが次々と外され、あっという間に上半身が裸になる。一気に裸に剥かれた事で、寒くはないがぶるりと身体が震えた。  須藤の視線が、上半身に据えられている事でやや戸惑ったが、その須藤の眉間が僅かに寄るのを見て、佑月はどうしたのかと内心で首を傾げた。 「痩せたな……」 「っ……」  佑月の白く細い腰に須藤の武骨な指が滑る。過剰すぎる程に身体がビクリと反応してしまい、そんな自分に驚く。たかが腰に触れられただけなのに、何とも言い難い、悪寒のようなものが走り抜けていったからだ。これは何なんだと、佑月は誤魔化すように、左腕上腕を擦りながら自身の体を見下ろした。 「もともと筋肉も付きにくくて、みすぼらしい身体なのに。この一ヶ月の入院で更に肉が落ちて、男として恥ずかしいです。ん? あれ? この傷……」  左脇腹の一部分の皮膚が、少しひきつれたようにボコボコとしている。まるで火傷のような痕。こんな傷を過去に負ったことはなかったはずだ。今回の怪我の一部ではないことは分かる。古傷とまではいかなくても、傷は完治してそれなりの月日が経っていると分かるものだからだ。どうやら記憶のない一年の間で負った傷のようだ。 「すまない。これは俺のせいで負わせてしまった傷だ」  労わるように、そっと須藤の指がそこに触れる。佑月は驚いて須藤の顔を見上げた。そこにはいつもの堂々とした須藤は鳴りを潜めている。 「負わせてしまったってことは、故意ではないでしょうし、直接的でもなかったんじゃないですか?」 「同じ事だ」  悔しさ、怒り、不甲斐なさといった須藤の感情が、佑月の中へ流れ込んでくる気がした。そう感じるのは、須藤の目がそれを伝えているからだ。漆黒の瞳がその焔で揺れている。  佑月は傷痕に触れる須藤の手を、とんとんと柔く叩いた。 「何があったのかはもう訊きませんが、なんかこれって勲章みたいでカッコ良くないですか?」 「勲章?」  怪訝そうに問う須藤に佑月はにっと笑う。 「俺の身体って異様な程に白いし細いしで、颯にはいつも女みたいだなんて言われて悔しかったから、これを見て、もう女みたいなんて言わないでしょ」 「見せたのか?」 「え?」  意気揚々と語る佑月に反して、なぜか須藤の表情は先程の顔から一変して、怖いものへと変貌している。何か須藤の機嫌を損ねるようなことを言っただろうかと、佑月は笑顔のままで固まってしまう。 「その颯とやらに、この身体を見せたのかと訊いている」 「……見せたって言うか、大学の頃はよくお互いの部屋に泊まったりしたし、着替える時に見られて。その時にいつも言われてたってだけですが……」  なんの説明をさせられているのか。不思議に思いながらも、須藤の眉間のシワがさらに深くなっている事が、佑月の不安を増長させる。 「前から気に食わない奴だとは思ってたが」  忌々しげにそう吐き捨てながら、須藤は佑月のジーンズのボタンを外し、ジッパーを下ろす。足首までジーンズを落とされ、下着にも手を掛けられた佑月は驚き慌てた。 「あ、ちょっと……須藤さん待ってくださいってば」  右手首を掴まれている上に、足首にはジーンズの枷。身動きがままならない。自分だけ下着一枚身に着けただけの格好は、さすがに羞恥を覚える。先程須藤が漏らした言葉も気になるわで、一人パニック状態になっていた。

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