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第62話
「ここでは寝るなよ」
顔を覗き込んでくる須藤に、佑月はこくこくと頷き、眉間を揉んで寝ないぞアピールをした。
髪を流し終えると、須藤は佑月に立つよう促す。
「背中流すから出ろ」
「はい……」
背中は確かに片手では洗いにくいが、頭とは違って身体ともなると抵抗がある。気心知れた颯や双子たちなら素直にお願い出来るが、須藤だとやはりかなりの緊張が襲う。しかしこのままグズグズしていても、須藤の苛立ちを煽るだけだった。
意を決して、須藤に支えてもらいながら佑月はバスタブから出るが、洗い場にはバスチェアなるものがなかった。そのため男二人が近すぎる距離で立っている。なんとも言えない気分だった。しかも佑月だけが裸という。逃げたいというのが本音だ。
「ぁ……っ」
一人悶々としていたところに突然背中に何かが滑っていき、佑月の口から妙な声がもれた。それが須藤の指だと理解したとき、泡の力を借りてスルスルと背中を撫で始められていた。
「す、須藤さん、まさか素手ですか?」
「そうだが?」
何か問題でもあるのかと言いたげな須藤の声音。いやいや問題あるだろうと、佑月は須藤へと上半身を捻る。
「何かボディタオルとかスポンジは無いんでしょうか。素手だなんて、洗って頂くだけでも申し訳ないのに……」
「タオルで擦ると肌が傷つく。手で洗うのが一番だ」
「そう……なんでしょうが……そうじゃなくて……」
男の肌を直に撫でることに、須藤は抵抗を感じないのだろうか。親友同士でもお互いに〝素手はないだろ! 気持ち悪い〟と普通は言い合うものではないか。須藤の手が決して気持ち悪いわけではない。 佑月の戸惑いを余所に、須藤の指は再び背中を滑っていく。
「すど……さん」
首筋、脇腹へと滑る指。ごしごしと擦られるわけではなく、丁寧に、かつ柔らかく指が滑っていくためか、ゾワゾワとしたものが全身に走っていく。過去の自分は、こんなにも敏感ではなかったように佑月は思った。壁に右手を突いて、何とかそれを誤魔化し耐えなければならない程だ。
「ぁ……」
腰に巻いたタオルの中に、少し指を入れられた上に尾骶骨をなぞられ、佑月は咄嗟に身を捩り須藤へと振り向いた。
「須藤さん……そ、そんなところまでしなくていいですよ。自分で洗えるので」
明らかな拒絶をして見せるのに、須藤は不意に佑月の背中へと密着し、手を腹の方まで回してきた。
「ちょ、ちょっと、須藤さん石鹸が……っ」
スルスルと腹を撫で回すように動かされた上に、須藤は佑月の耳元へと唇を寄せてくる。
「男同士で何をそんなに恥ずかしがる? お前の手が届かないところを洗ってやろうと言うんだ。甘えておけばいい」
「でも……」
甘えろと言われても、触れ方が微妙なソフトタッチなため、ゾワゾワと震えが走ることを止められない。妙な声も出そうになるわで、須藤に変に思われないかが気になるのだ。しかも耳朶の後ろには須藤の唇が触れている。自身でもこんなにも過剰に反応してしまう身体に戸惑っているのにと、佑月は右手で須藤の手を止めようと必死になる。
「須藤さん、前は自分で洗えますってば……あっ!」
須藤の手と攻防戦を繰り広げていたが、その須藤の指が不意に佑月の胸の頂を掠めた。
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