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第73話

 佑月は頭の中にある予定表を引っ張り出し、依頼の確認をする。夕方に依頼が一件あるが、定時に終われる内容だ。他のメンバーも同様だった。 「俺も今日は定時に上がれそう」 『本当? オレ今日は車で来てるから飲みは今度で、飯食いに行こう! 二十時半頃に事務所へ迎えに行くよ』 「わざわざありがとう。じゃあお言葉に甘えて待ってる」  佑月がそう言うと、村上が一瞬黙ってしまう。佑月は怪訝に思い問いかける。 「村上さん?」 『あ、あぁ、ごめん。なんか成海くんに待ってるって言われると、妙に擽ったい』 「擽ったいって、何ですかそれ」  佑月が笑って言うと、村上も可笑しそに声を立てて笑った。 『じゃ、また病院出る時に連絡するよ』 「うん、よろしくです」  通話を切った後、佑月は直ぐに電話帳の名簿から滝川の名前を呼び出す。そして今日の迎えは要らない旨をメールで伝えた。電話だと仕事の邪魔になるからだ。そして須藤にもメールで遅くなる事を連絡しておいた。  きっと今夜の食事にも、佑月の護衛がついているはずだ。仕事中の護衛も、佑月の邪魔に決してならないようにしてくれている。というか、護衛の姿を見たことがない。それほどまでに、徹底的に影に徹してくれている。だから本当は、あまりウロウロとして護衛の手を煩わせる事は避けたい。でもたまには息抜きもさせて欲しいと、佑月は内心で護衛の者に謝った。  本日の仕事が全て終わり、陸斗らも帰って行った事務所内で佑月は一人、金庫等の施錠確認する。全て確認し終えた絶妙なタイミングでスマートフォンが振動した。 「もしもし村上さん、お疲れ様です」 『お疲れ様! もうすぐ着くから事務所から出ておいで』 「分かった。ありがとう」  久しぶりに誰かと食事に行く事が楽しみで、自然と佑月のテンションも上がっていた。通話を切った途端にまた着信があり、村上が何か言い忘れでもあったのかと画面を見る。  陽気なテンションから一気に緊張感に包まれる。表示されているのは須藤の名前だったからだ。 「もしもし、お疲れ様です」 『あぁ、お疲れ。メッセージを見た。二人で会うのか?』 「はい。リハビリの件でお話したかったので、時間を作って頂きました」  向こうから誘われたと言うと、断れと言われてしまう恐れがある。だから自分から誘ったことと、リハビリ中止の件を言えば、須藤も無下に止めろとは言わないだろう。そう思っているのだが、何か沈黙の時間がやたらと長い事が気になる。 「須藤さん?」 『……分かった。あまり遅くなるなよ。帰る時は連絡しろ。迎えにいく』  少し不機嫌な声ながらも許可をもらえて、佑月はホッとした。礼を言おうとしたが、通話は切れていた。とにかく佑月は急いで事務所に鍵を掛けると、駆け足で表に出る。  ほんの一ヶ月前は歩く事も困難だった。こうして自分の足で歩けて、駆ける事が出来ることに感謝した。 「村上さん、お疲れ様!」  ちょうど表に出ると、車が車道の脇に止まったところだった。 「お疲れ! 乗って」  助手席の窓を開けて、村上が運転席から佑月を呼ぶ。佑月は頷いて、直ぐに車に乗り込んだ。  村上の車は大きなSUVのため、車高が高く、とても乗り心地もいい。

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