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第78話

「だから支倉の父親から彼の状態を聞いても、どう思えば正解なのか分からなかったんです。ただ俺が気になるのは、貴方のことです」  須藤の右眉が僅かに上がった。そんな須藤を見つめながら、佑月は先程の支倉の言葉を思い出していた。  〝今や全く声が出なくて、話すことが出来ない。しかも糞尿たれ流しで……〟  この様な状態になるなど、余程の事があったのだろう。心身ともに、かなりのダメージになるほどの事が。だがこれは須藤から直接聞いたわけではない。支倉からの一方的な情報だ。でも支倉が少しオーバーに伝えていたとしても、恐らくそれに近いことを須藤はしたに違いない。 「俺のために〝そこまで〟してしまう理由が分からないです。友人がやられたから、色んな筋の力を借りてまでやり返す。そんなの普通じゃ考えられないです」 「俺は〝普通〟ではない。そう思っておけばいい」  一瞬佑月は二の句が継げなくなった。しかし直ぐに佑月は首を振った。 「そ、そうだとしても、友人のために、危ないことに首を突っ込むなんて、どうして出来るんですか? 俺だって、颯や陸斗らメンバーに何かあったら出来ることはします。でもそれは場合にもよります。警察に任せないといけない時は、警察に任せます。例え友人の為と言えど、踏み込んではならない領域ってものが、それぞれにあるからです。どうして貴方は、俺のためにそこまで出来るんですか?」  佑月は須藤の目を真っ直ぐに見つめた。須藤は決して目を逸らすことなく、佑月を見返す。しかし須藤の眉が僅かだが寄る。何かに耐えてるとも取れるし、踏み込んだ佑月が気に入らないとも取れる。でも佑月は、須藤は前者なのではと感じた。何に耐えているのかは分からないが。 「言っただろう? 大事な人間が傷付けられたら、黙ってはいられないと。警察に引き渡す? 冗談じゃない。生き地獄を味わわせてやらなければ、収まる気も収まらない」  収まることはないがと、須藤は拳を強く握りしめていた。  敵討ちに近い事をされても、佑月からすれば困るだけだが、これは須藤自身の問題である事が大きいように感じた。自身の怒りを抑える姿は、そうとしか考えられない。  須藤が原因で佑月が狙われたと聞いた。それは謂わば、須藤に売られた喧嘩と言っても過言ではないことだからだ。だからここで、佑月がそういった残酷な事は止めてくれてと言っても、恐らく無駄な気がした。  それから会話もなくマンションに着き、二人はリビングに入る。このまま部屋へ行こうかと思った佑月だったが、思い留まり須藤へと口を開いた。 「須藤さん、お食事まだですよね? 何か作ります」 「飯はいい。それより先に風呂だな」  須藤は上着をソファの背もたれに掛けると、風呂場へと向かっていく。佑月は慌てて上着をハンガーに掛けると、須藤を追いかける。 「そんなこと、俺がします」 「いつも俺がしてるのに、何をそんなに慌ててるんだ」 「べ、別に慌てては……」 「ふーん」  バスタブの栓を閉じてから、須藤はリモコンの運転スイッチを押す。風呂釜から勢い良くお湯が出てくる音が響く。  須藤の痛すぎる視線に、佑月は逃げるようにリビングへと戻った。

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