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第79話
確かに須藤が早く帰ってきた時は、須藤がお湯を沸かしてくれる。それも佑月を風呂に入れるために。だから余計に風呂を入れるタイミングは、自分でしたかったのだ。
当初よりは慣れてきたとはいえ、やはりまだまだ緊張してしまう。怪我が完治するまでは、須藤もこの件に関しては譲る気はなく、佑月は黙って従うしかなかった。
キッチンに設置してあるリモコンから、お湯が溜まった報せのメロディーが流れる。佑月は見るとも無しに見ていたテレビを消して、こっそりため息を吐いた。
須藤がパソコンを閉じて、ソファから立ち上がる。この瞬間はいつも緊張するのだが、何故か今夜は更に佑月の緊張は高まっていた。
「行くぞ」
「は、はい。よろしくお願いします」
そしていつも風呂へ行く時は、すぐそこだというのに、須藤は佑月をエスコートするように、腰に手を当ててくる。逃げることは許さないと、無言で告げられている気分になる。
洗面ルームで佑月が服を脱ぐ間、須藤はいつも佑月のための入浴剤を入れたり、自身の服が濡れないようにと準備をする。しかし今日の須藤は、何故か自身のワイシャツのボタンを全て外している。
佑月は疑問に思いながらもワイシャツを脱ぎ、上半身は裸になった。須藤が直ぐに防水カバーを、ギプスの上に被せてくれる。佑月は礼を言って、スラックスを脱ごうとした。
「え……っと、須藤さん?」
須藤が黙々と身に着けていたものを脱ぎ、仕舞いには全裸になってしまう。佑月は咄嗟に須藤に背中を向けた。
「今日は俺も一緒に入ろうかと思ってな」
「へぇ、一緒に……って、え? 一緒にって!?」
一気に慌てる佑月にはお構いなく、須藤は佑月の背後からスラックスを脱がし、果ては下着に手をかけずらしてきた。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください! 一旦落ち着きましょう!」
「お前がな」
間髪入れずに須藤に突っ込まれ、佑月は一瞬黙る。しかし、下着を一気に足首まで落とされた事で我に返った。
「す、須藤さん! やっぱり男二人が一緒に風呂に入るっていうのは、おかしいです。銭湯や温泉なら分かりますけど、家の風呂で大の男が一緒に入るなど不自然です」
佑月は長めのフェイスタオルを素早く取ると、腰に巻き付けた。まだ須藤に背中を向けたままのため、須藤の表情は分からない。そうでなくても、さっきまで暗い雰囲気で、お互い口数も少なかったというのに。いきなり裸のお付き合いなど出来るわけがない。
「不自然も何も、毎日ほぼ一緒に入っているようなもんだろ」
ついには須藤に右腕を取られ、バスルームへと連行される。もちろん佑月は抵抗を試みる。足を踏ん張っていると、須藤がチラリと佑月へと振り向いた。眼光が全てを語っている。
──何をしてる。早くしろ──と。
「毎日一緒にって……確かにそうですし、お世話にもなってます。でもそれは、須藤さんはいつも……」
(ちゃんと服を着てるから、まだ介助されてるって思うことは出来るけど。裸は……ないっ!)
「俺はいつも、なんだ?」
佑月が抵抗するのをやめたと悟った須藤は、佑月の白い背中に手を添えて、シャワー前へと誘導した。
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