81 / 198

第81話

「気になるのか?」  佑月の手に須藤の大きな手が重なる。佑月の鼓動が一つ跳ねるなか、須藤の指は更に佑月の指に絡むように触れてきた。 「あ……その、こんなに綺麗な肌をされているから、妙に目立って、すみません」  佑月が慌てて手を引っ込めると、須藤がゆっくりと腰を上げる。そのせいで目の前に秘めたる部位が露わになり、佑月は直ぐに顔を背けた。  須藤は全く恥じらう事がないため、男同士なのに過剰に反応し過ぎたかと思ったが、どうしても直視する事が出来ない。別に見なくていいものだが。 「佑月、もう少し前へずれてくれ」 「え? あ、はい」  柔く肩を前へ押され、佑月は素直に前にずれた。 「え!?」  前へずれた事によって出来た僅かな隙間へと、須藤がバスタブの縁を跨いで入ってきた。なぜ後ろなんだと、佑月は焦りながら離れようとした。しかし背後から須藤の腕が腰に回され、前へ移動出来なくなる。 「す、須藤さん?」  背中を須藤に預ける形になり、佑月は狼狽える。  これはおかしい。友達同士でもこんな体勢は絶対にしない。  腕から逃れようと身動ぐが、余計に須藤に引き寄せられる事になり、もうどうにもならない状態だった。思いっきり暴れて、抵抗することも出来る。だけどそれは何故か出来なかった。佑月の中で何かせめぎ合いをしているようで、身体が上手く動かないのだ。 「この傷は」 「は、はい?」  突然耳元で話しかけられたせいで、余計に佑月の身体は硬くなってしまう。だが、傷のことを言っていると分かると、佑月の身体は少し和らいでいった。 「俺にとっては勲章みたいなものだな」 「勲章……ですか?」 「あぁ。お前の脇腹にある傷が勲章というように、これもそうだ」  身体を捻って、もう一度傷を見たかったが、須藤の両腕が佑月の腹に回されたために、動くことは困難になった。 「す……どうさん」  佑月の左肩に重みが加わる。見ると須藤が佑月の肩に顔を埋めていた。 「少しこのままで」  そう言った須藤は、佑月を抱きしめる力を少し強めた。  少し疲れたような声。それはそうだろう。秒刻みで動くと颯から聞いた。相当に疲労は溜まっているはずだ。それなのに、いつも佑月の風呂の手伝いをしてくれる。  何度も一人で入れると言ってきた。須藤にはもっと自分優先に、疲れている時ぐらいはゆっくり休んで欲しいとも言ってきた。それでも須藤は決して首を縦には振らないのだ。  今もそれを言っても、どうせ須藤は聞いてくれない。須藤は自分が思うままに行動するようだから、他人が何を言っても余っ程のことがない限り、聞く耳を持たないだろう。ならば佑月は須藤が満足して落ち着くまで、静かに黙っていようと思った。  暫くして、須藤は「背中を流してやる」と言って佑月に立つよう促してきた。 「は、はい。ちょっと待ってくださいね」  佑月は慌ててカウンターからフェイスタオルを取ると、腰を上げた瞬間に直ぐに腰にタオルを巻いた。何をやっているのだと思うが、このまま腰を上げると、須藤の眼前に尻を向けることになってしまう。恥ずかしいし、何よりかなり失礼だろうと。

ともだちにシェアしよう!