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第82話

 須藤がどう思ったかは知らないが、佑月の行動には何も口にせずバスタブから出ると、自身専用のバスチェアに座った。佑月は須藤の前に座り、こっそりと落ち着かせようと深呼吸をした。  いつもの流れ。見るからに高級そうなボデイーソープのボトルから、須藤は惜しみなくきめ細かな泡を出す。たっぷりな泡を佑月の白い背中へ乗せ、そして伸ばしていく。  須藤はいつも素手で佑月の肌に触れてくる。肌を傷付けないためだと言っていたが、正直佑月は肌のことなど考えた事がなかった。美容面に関しては、とんと無頓着だからだ。自分が女性だったら、もしかしたら気をつけていたかもしれないが。須藤はそれがどうも許せないようだ。  男同士でしかも男の肌を素手で触る。これは特に全く慣れることがない。須藤の触れ方にも問題がある。 「……っ」  脇腹を滑る手。背筋に滑っていく指。微妙なタッチのせいで背中はゾクゾクとしてしまう。もう少しゴシゴシとしてくれても問題ないのにと、佑月はいつも思ってしまう。 「ぁ……っ」  不意に大きな手のひらが、小さな粒を押し潰すように滑っていった。前に触れてくるのは、初めて身体を洗ってもらった日以来。  どうしてと、小さく盛れた声を隠すように、今更手で口元を覆う。 「あの、須藤さん、前は自分で洗うって言ったのに」 「今日はお互い裸なんだ。濡れても困ることはないだろ?」 「そ、そうじゃなくて、ちゃんと身体くらいは洗えます」 「遠慮しなくてもいいだろ? それとも恥ずかしいのか?」  両脇腹から一気に胸元まで滑る須藤の手。ゾワゾワと何とも言えない痺れが全身を走る。 「ん……恥ずかしいって言うか、その……触り方が」 「触り方が? 気持ち悪いか?」 「ひ……っ」  耳元に唇を寄せて、須藤は佑月の両胸の突起を親指で弾いた。そのせいで、快感と表現したくなるような電流が走る。以前も胸を指で掠められ、同じようなことが身体に起こった。少し触れただけで、過敏に反応する己の身体が、佑月は怖くて堪らなくなる。 「や……やめ……」  須藤の指は佑月の細い首筋を撫でたり、お腹を撫でたりと、明らかにいつもとは違う触れ方に、佑月は半ばパニックになる。 「すど……っ!?」  止めさせたくて、思いきって鏡を見た佑月だったが、不意打ちのように、鏡越しで須藤とばっちり目が合ってしまう。佑月はヒュっと息を呑む。  どうしてそんな目をしているのか。まるで佑月に欲情しているかのような、熱い眼差し。佑月は二の句が継げなくなり、思考も停止してしまったように動けなくなってしまった。 「男でも、ここを弄られると女のように感じることが出来る。試してみようか」 「い、いや……」  佑月は緩く首を振るが、そうしている間も須藤の目線に縛られ、目を離すことが出来ずにいる。まるで催眠術にかけられたみたいだ。

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