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第92話
(本当に……オカンみたいになってるし)
佑月は内心で盛大に笑う。でもその〝オカン須藤〟のお陰で、緊張していた佑月は落ち着くことが出来た。
平田は手際良くギプスを外す。初めてみた患部に、佑月は眉を寄せてしまう。思ってた以上に痛々しい見た目だった。腕から二ミリ程の太さのある釘が、二本飛び出している。
「では、抜きますね」
「はい、お願いします」
ペンチのような物で釘を挟むと、少し拗られる。その時に僅かな痛みがあったものの、抜く時はほぼ痛みを感じなかった。
「はい、抜けました。止血しますので少し押さえますね」
押さえられる時の方が痛いような気がしたが、何はともあれ異物が抜けた事で佑月はホッとした。
須藤がよく我慢したと言わんばかりに、佑月の頭を撫でている。今日は佑月以上にやきもきとしている〝オカン須藤〟だから、佑月は恥ずかしいが黙って撫でさせておいた。どうせ見ているのは平田だけだ。
「成海さん、これからのリハビリは私が担当させて頂きます。よろしくお願いします」
処置が終わると、平田は改まって佑月へと頭を下げた。寝耳に水だった佑月は、驚いて須藤を見てしまう。
「あぁ、平田がこれからウチに来てリハビリをしてくれる。また新しい人間に任せるよりも緊張しなくていいだろ?」
「はい、ありがとうございます。そして平田先生これからよろしくお願いします」
須藤に礼を言ってから、佑月は平田へと頭を下げる。平田の丁寧で優しい人柄に、もぐりという事が勿体ないとは思ったが、須藤の言う通りに知らない人間がまた現れるよりかは、かなり気持ちも楽だった。
それから軽くリハビリをしてもらってから、佑月は事務所まで送ってもらった。
「骨がくっ付いたからと言って、無茶はするなよ」
「しませんよ。お気遣いありがとうございます。そして色々とありがとうございます」
「あぁ」
須藤と真山に礼を伝え、マイバッハが視界から消えるまで見送った。今日は新たな須藤の一面を見て、嬉しくて胸が高鳴る佑月がいた──。
今日一日の仕事を終え、佑月はマンションへと帰ってくると、昨日の礼をと村上へと電話をかけた。礼だけではない。かなり嫌な思いをさせたし、迷惑だってかけた。だから改めて謝罪したかったのだ。
少し長めのコールが鳴る。まだ終わってないのかもしれないと、電話を切ろうしたときに繋がった。
「あ、もしもし村上さん? お疲れ様です」
『成海くん……お疲れ様。どうしたの?』
心做 しか、いつもの快活さがないように感じた。一日に沢山の患者さんと接し、体力にメンタルと、かなり疲れも溜まるだろう。それでも佑月の前ではそれを出さなかったのに、余程の疲れなのだろうと、佑月は要件だけ伝えることにした。
『そんな事気にしなくていいのに。あの時はビックリしたけど、オレはすごく楽しかったし』
「そう言ってもらえて嬉しいよ。またもっとゆっくり話したいし、改めて誘いたいんだけどいいかな?」
楽しかったと言う言葉を聞けてホッとするも、村上から直ぐに返事がなく、佑月は聞こえなかったかと再び口を開こうとした。
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