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第93話
『……ごめん……成海くん』
「え? どうしたんですか? なんで村上さんが謝ってるんですか」
突然謝られても佑月は戸惑うだけだ。村上が佑月に対して謝罪すること自体、全く見当もつかないのに。
『もう二人で会うのはやめよう。せっかく成海くんとは仲良くやっていけそうと思ったけど、俺の勝手なことで本当にごめん』
「ちょ、ちょっと待って! なんで? なんで急に……あ……」
なんで、ではない。昨日のことを考えれば、佑月との付き合いも考えるだろう。明らかに不穏な環境に身を置く人間とは、関わりを避けるのが普通だ。
そうは言っても、佑月の心は抉られるように痛む。記憶喪失になってから、初めて出来た友人で嬉しかったのにと。
『成海くんが考えてる理由ではないよ。オレ個人の問題というか……』
「オレ個人の問題? 俺のことイヤになったとかではなくて……?」
佑月の声は消え入りそうになる。すると電話の向こうでは、何やら焦っているような空気が佑月へと伝わってきた。
『まさか! 成海くんの事がイヤになるわけがない!』
村上の強い気持ちが、受話口からもよく分かるほどだ。それは嘘偽りない気持ちだと。だったら、佑月が考えている理由でないなら、一体何が村上の気持ちを変えてしまったのか。
「俺は本当に村上さんのことは友人だと思ってるし、叶うならこれからもずっと友人でいて欲しい。でもどうしてもそれが無理だって言うなら、理由を聞かせてほしい」
そうでなくては、一方的にもう会えないと言われても納得など出来ない。だけどこれは、かなりデリケートなことだ。本当ならば触れない方がお互いのためにいいのかもしれない。だけど自分勝手ながらも、やはり明確な理由が欲しかった。
『……そうだよね。一方的な事を言ってるのはオレだし、これじゃフェアじゃない。成海くんにすごく失礼だもんな』
村上が大きく息を吐いているのが聞こえる。それほどまでに重い内容なのかと、佑月は緊張し息苦しくなってきた。
『本当は成海くんに伝える気なんてなかったんだけど……オレ……成海くんの事が好きなんだ』
「あ……──」
『ごめん、遮って申し訳ないんだけど、最後まで聞いて欲しくて』
村上の真剣な言葉に、佑月は開いた口を閉じた。
『それで……このままこの気持ちを黙ってても、別に成海くんとも友達として付き合っていけるってオレは思ってたんだけど……。やっぱりちょっと欲も出てきたりするんだよね。もっと近づきたい、もっとオレを知って欲しいとか』
佑月はそこまでの熱い気持ちを持つほどの恋愛はしてこなかったが、殆どの者は好きになれば当然持つ感情だとは分かる。
『そんなオレの下心が筒抜けだったみたいでね……』
「……筒抜け?」
『うん……』
小さくなりつつある村上の声。佑月は聞き漏らすまいと耳に意識を向ける。
『昨夜成海くんと別れた後に、一人の男がオレのマンションの前にいて……。それで〝成海さんには今後二度と近づくな〟って言われて。いきなりの事でびっくりしたんだけど、でも彼の言うことは至極まともな事で……』
「村上さん! ごめんなさい。最後まで聞かなきゃならないって事は分かってるんですが、口を挟ませてください。男がマンションの前にいたって、待ち伏せされてたんですか? 村上さん何かされたりなどは?」
佑月は心配でつい話の腰を折ってしまった。
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