101 / 198

第101話

 佑月が外へ出ると、ちょうど数名の護衛らしき男が、喚く男を引き取っているところだった。通行人は興味深く、または恐怖で固まったりと各々あるが、皆が注目している。一見すると強面刑事がチンピラを捕らえているようにも見えるため、誰かが警察に通報するといった動きは見られなかった。  護衛に男を預けた滝川は、佑月の側へと直ぐにやって来る。 「お騒がせして申し訳ございません」 「い、いえ……」  チラリと滝川の後方に視線をやれば、男が未だに暴言を吐くなか、連行される様子が目に入る。滝川が佑月に事務所へ戻るよう促してきた。 「お話は帰ってからさせて頂きます」 「はい……」  事務所に戻ると、佑月は来客用スペースで一応ガラステーブルに、お弁当と飲み物などを置いた。 「あ、成海さん……わざわざ私の分まで? 大変恐縮です。ありがとうございます。後ほどお支払いさせて頂きます」  好みのものか分からないし、支払いはいいと佑月は告げたが、滝川は頑としてそこは譲らなかった。きっと何を言っても滝川は首を縦に振ることはない。諦めた佑月は滝川へと頷くしかなかった。 「さっきの男は……ヤクザですよね?」  場を改めると、佑月は開口一番にそう訊ねた。 「はい。朱龍会の下っ端も下っ端ですが」  コンビニへ向かうために事務所から出た時から、すでにあの男は佑月をつけていたという。  そう言えば、滝川が周囲に視線を走らせていた。あの一瞬で不審者を見つける滝川の目に、佑月は驚かされた。 「成海さんについている護衛に、直ぐ片付けさせても良かったのですが、ここは成海さん自身にもしっかりとご自分の状況を分かって頂きたくて、あの様な形を取らせて頂きました」 「そう……だったんですね……」  滝川の言う通りに、佑月は先程のことで改めて身の危険を痛感した。支倉の時とは全く違うのは当然で、相手がヤクザだからだ。  支倉の件は置いておいて、近くに護衛がついてくれていることは分かってはいても、佑月は一度も緊張感など感じた事がなかった。どこか他人事とでも言うのか、実際に身の危険を感じた事がないからだ。それは今まで、佑月に察知させないようにとの配慮があったから。  佑月は今回のことでしっかりと自分の立場を認識させられた。だからこうしている今も、滝川と護衛に迷惑をかけている。本当は須藤のマンションへ、帰って欲しいと思っていることだろう。 「あの……」 「成海さん、今夜はここでゆっくりとなさって下さい。ただ何度も申しますが、明日からは本当に申し訳ございませんが、須藤様のマンションへお戻り下さい」  お願いしますと、滝川はソファから腰を上げて、佑月へと深々と頭を下げた。  ここまでされてしまえば、もう佑月の我儘など通らない。何故自分が色々と制限を付けられ、我慢しないといけないのかという不満はある。しかし命の危険や、周囲の事を考えると佑月はノーとは言えなかった。 「はい、分かりました。今夜のことは本当にありがとうございます。護って下さったり、たくさんの負担をかけてしまって申し訳ございませんが、明日になれば戻らせて頂きます」  佑月も腰を上げ、滝川へと腰を折った。顔を上げると、滝川はとても辛そうな笑みを佑月へと向けていた。何か言いたそうに葛藤していた様子の滝川だったが、直ぐに気持ちを切り替えたのか、口元を引き締めた。

ともだちにシェアしよう!