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第102話

「では、私は隣の部屋におります。御用の際はご遠慮なくお訪ね下さい。部屋の鍵は開けておりますので。おやすみなさい」 「……はい、ありがとうございます。おやすみなさい」  滝川が事務所から出て隣の部屋に入るところまで見送ると、佑月は直ぐにドアを閉めて鍵をかけた。  佑月は力の抜けた身体をソファに沈める。 「はぁ……座らなかったら良かった。今動かないと絶対動けなくなるな……」  佑月は重い身体に気合いを入れて、せっかく下ろした腰を上げた。  シャワーは朝一に隣の部屋で借りようと決め、佑月はコンビニ弁当をレンジで温める。正直全く腹は減っていない。しかし昼もまともに食べていないため、少しでも腹に入れておかないと疲労は取れないだろう。 「あんまり……美味しくないな」  もそもそと食事を終えると、佑月はパソコンの前に座りボーッと画面を眺める。  明日から正直どうしたらいいのか分からない。まだ須藤の顔は見たくないと今は思っている。いつになったら佑月は自由の身になれるのか。須藤と友人でいる限りこの環境はずっと変わらないのか。 「最悪じゃないか……」  佑月は頭を抱えた。 「また記憶が無くなってくれないかな……」  そう呟いた瞬間、一気に自分に対しての嫌悪感が湧いた。  最低だ。こんな風に思うなど。今回の事で、どれだけ周りに迷惑をかけているのか知らないはずがないのに。佑月に不便がないように、サポートをしてくれるみんなへの裏切りだ。須藤だってずっと佑月の傍で一番支えてもくれていた。それに関しては本当に感謝しなくてはならない事なのにと、佑月は酷い自己嫌悪に陥ってしまった。  結局佑月は昨夜も反省や、モヤモヤと格闘していたため一睡も出来ず、朝を向かえることになった。軽い頭痛と、モヤがかかった頭に少しでもスッキリさせたくて、滝川がいる隣の部屋のシャワーを借りた。佑月がシャワーを浴びている間は、何故か滝川は事務所にいると言っていた。別に女性でもないのに、そこまで遠慮する必要があるのかと疑問に思ったが、佑月がとやかく言う資格はない。  シャワーを浴びて少し頭をシャキッとさせると、滝川と共にコンビニへ向かった。その時に昨夜の弁当代などを律儀に返される。佑月に少しの苦笑がもれてしまった。やはり佑月のことは、護衛対象だという線引きしっかりされた事が少し寂しかったからだ。  一日の勤務を終え、佑月の気が一気に重くなる。滝川が迎えに来てくれたが、その車中はまるで監獄行きのようで重苦しい空気が流れていた。 「では成海さん、お疲れ様です。おやすみなさい」 「……はい。色々とご迷惑おかけしましたが、お付き合い下さり、ありがとうございました。おやすみなさい」   滝川は微笑むと、佑月の背後にある玄関ドアに視線を移していった。恐らく佑月が中へ入るまで帰らないつもりだろう。  佑月は鉄のようにも感じる重い扉を開いて、中へ足を入れた。

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