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第104話《深まる溝》
佑月は扉の向こうにいる須藤を、剣呑な目付きで睨み据える。
「お前を怒らせると分かっていながら、勝手した事については本当に悪かったと思ってる」
「それだけですか? 須藤さんが謝るのは。今更謝っても遅いですが、村上さんに対して何か思うこともないんですか?」
「あの男に関しては何も思うことはない。俺が思うのはお前のことだけだ」
須藤の心無い言葉に、佑月の頭に一気に血が上っていった。
「なんですかそれ! 何も思うことはないって、どうしてそんな酷いことが言えるんですか」
「酷かろうが、俺にとってあの男はどうでもいい存在だ。何かを思いやる必要もない人間。俺とは全くの無関係だからな」
「そ、そんな……」
無関係だから村上が傷付こうがどうでもいい。須藤はそう言っているのだ。無慈悲な男だと、佑月はあまりの怒りのせいで全身を震わせていた。
「もういいです。あっち行ってください。今は貴方の声を聞くだけでも不愉快になります」
「佑月……」
「いいから早く立ち去ってください!」
扉に何か投げてやろうかと思ったが、さすがにそれはやり過ぎになる。佑月はそこはグッと我慢した。
須藤が直ぐに立ち去ったかは分からない。しかしもう声をかけてくる様子がないため、佑月はホッと小さく息をついた。
どうして須藤は、佑月には過剰なくらいに優しさを見せる事が出来るのに、それを少しでも他の者にも見せることが出来ないのか。今の佑月の頭の中は怒りで占められ、自分の感情だけでしか考える事が出来なかった──。
あの夜から一週間が経つ。須藤は相変わらず多忙なのか、帰らない日や、深夜の時間に帰って来る日があるようだ。朝もいつもより早く出ていく。だから全く顔を合わせていない。
佑月も顔を合わせないように、気をつけて過ごしていたが杞憂に終わった。
「危ない!」
「わっ!」
佑月の背中を支える二つの手。肝を冷やしたが、落ちずにすんで良かったと、安堵の息を吐いた。
「ありがとう、陸斗、海斗」
「それ、オレが持ちます」
陸斗は持っていた大きなダンボールを、海斗が持っているダンボールの上に乗せると、佑月へと手を伸ばしてくる。
「大丈夫だよ! ほら、さっさと持って行こ」
佑月は陸斗と海斗へ笑顔を見せるが、二人は少し複雑そうな笑みを浮かべていた。
今日の仕事の依頼は、アパート二階への荷物運びのお手伝い。その階段を上がっている途中で、佑月は軽い眩暈がしたのだ。二人が支えてくれたお陰で助かったが、こうなる原因が自分でもよく分かっていたため、内心では猛省した。
ここ一週間、寝られない日が続き、睡眠不足が祟ったせいだ。考え事ばかりしているせいで、眠気があっても全く寝付く事が出来ず、苦しい一週間を過ごしている。時々事務所内で、待機中に睡魔に抗えず寝てしまっている事もあった。その度にメンバー三人に起こされるという、失態を演じてしまっている。
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