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第105話《心の悲鳴》
三人はきっと訳を聞きたいと思っているだろう。本当は迷惑をかけているのだから、正直に話したいが、人の心情に関わるセンシティブな内容なため、言えていないのだ。
メンタル面の疲れが出ているとだけ三人には伝えたため、きっとモヤモヤとしているだろう。
「佑月先輩、今夜はうちに来ますか? 少しでも寝れる環境を作らないと、本当に身体壊しますよ」
依頼からの帰りの電車内。混み合う車内で、陸斗と海斗は佑月を守るように立ってくれている。佑月の真正面に立つ陸斗が、心配したように言う。
「ありがとう。そうしたいんだけど、俺には護衛が付いてるし、迷惑かけられないから。今もこの車内に付いてくれてるし」
佑月の直ぐ後ろに一人付いている。そして同じ車内にもまだ最低一人はいるだろう。
「そんな事気にしてたら、佑月先輩休まる時がないじゃないですか」
「ありがとう二人とも。本当に大丈夫だから。今夜はきっと寝られるよ」
佑月はにっこりと微笑み、二人の頭をわしゃわしゃと撫でた。くしゃくしゃになっても二人は嫌な顔をせず、ただ佑月を心配して無理に笑顔を見せた。
今日一日の仕事がいつもよりかなり早く終わり、夕方の時間、四人は事務所のソファで寛いでいた。
その時、事務所のドアを忙しなく叩く音が響いた。瞬時に四人が顔を見合わす。
「佑月先輩と花はそこにいてください。オレが見てきます」
陸斗がそう言うと、海斗もソファから腰を上げる。佑月はいまは従う時だと、花と一緒に頷いた。
「うわっ!」
海斗の驚いた声がし、佑月は咄嗟に花を庇うように身構えた。すると衝立の向こうから、背の高い男が現れた。
「た、滝川さん?」
「驚かせて申し訳ごさいません。ただ急用にございまして」
こんなに焦っている滝川を見るのは、初めてだった。陸斗と海斗もどうしたのかと、滝川と佑月を見守る。
「突然押し入るような真似、本当に申し訳ごさいませんでした」
「いえ……」
滝川が運転するBMWの車内は、いつにも増して緊迫した空気が流れていた。佑月の身体も緊張して、手には沢山の汗を握っている状態だ。
須藤が倒れた。そう事務所で聞いた時は、何か佑月の中が悲鳴を上げているような感覚に陥った。そんな自分に、自分が一番驚いたものだった。今も心臓が爆ぜそうな程の勢いで、佑月を不安にさせている。
今は仲違いしていても、やはり倒れたと聞くと心は穏やかではいられない。心配もする。しかしこの不安、恐怖、悲痛といった、マイナスの感情が湧き上がって止まらないのは何故なのか。佑月はずっと胸を押さえていた。
「え……ここ……ですか?」
車が止まった場所に佑月は戸惑いを隠せず、眉間に深いシワを寄せてしまっていた。もしかして入院に必要な物を取りに来たのかもしれない。佑月はとりあえず車から降りた。
エレベーターに乗った時に滝川がようやく口を開く。
「須藤様が倒れられたことは公には出来ません。ですので、こちらに先日成海さんも会われた、平田医師が往診に来てくれます」
「そう……ですか」
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