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第107話

 どんな事があっても、須藤はメンタルが弱ることが無いという。だからどんなに激務であっても、強靭な肉体と鋼のメンタルで、なんでもこなして来たようだ。その須藤が不調をきたすなど、何かよっぽどの事があったに違いないと、皆が思うことだろう。特に平田は医師という立場での診察結果を告げている。 「疲労回復の点滴をしております。だいたい十五分前後で終わります。栄養と、睡眠をしっかりとって頂くようにお伝えください。後は……メンタル面のサポートをお願いしたいです」 「……はい、分かりました。遠いところを本当にありがとうございます」  佑月は平田に深く頭を下げる。平田は優しい顔で微笑むと、佑月をソファへ座るよう促してきた。 「成海さんのリハビリもしておきましょう」 「あ……ありがとうございます……」  こんな時にと思ったが、真山と滝川は佑月へと勧めるように頷いた。確かに遠くからわざわざ出向いてくれている平田に、断ることも躊躇われる。佑月は平田の隣へと腰を下ろした。  リハビリが終わると、平田は念の為にとビタミン剤と睡眠薬を処方して帰って行った。真山と滝川も佑月に「よろしくお願いいたします」と言って帰ってしまった。  佑月は一人、須藤のベッドサイドに、一人がけ用のチェアを持ってきて座っている。  規則正しく上下する胸元を見ていると、佑月はホッとした。過労で倒れてそのまま亡くなるケースだってある。だから生きている証を見ると、泣きたくなるほど安心するのだ。  まさか須藤が、メンタルに不調をきたすとは佑月は思ってもみなかった。須藤だって人間なのだから、過労や過度なストレスがかかると不調にもなる。しかし失礼ながらも、どこか須藤はメンタル面では、何もダメージを受けることはないと思っていた。  そう、今回の須藤の不調はきっと佑月が原因だ。今まで不調になる事がなかった男が、このタイミングで不調になるなど、今回の事が原因だとしか思えなかったからだ。しかし、佑月が不調になるならまだしも、一体何が須藤のメンタルを削ったのか。 「でも……俺も言い過ぎた」  佑月は須藤の顔を見ながら呟く。そして今、改めてゆっくり考えると、今回のことは須藤を一方的に責められなかった。  村上が電話でもう会わないと言った時、その理由を聞き出してしまったのは佑月だ。村上は伝える気がなかったと言っていたのに。村上に忠告した男も、佑月に村上の気持ちが露呈する前に潔く身を引いてくれと言った。佑月が追求しなければ、村上は佑月に気持ちを知られることなく離れられた。  佑月は頭を抱えるようにして項垂れた。須藤が勝手な事をした事は、今も許せない。でも須藤の身体のことを思うと、いつまでも無視をするわけにはいかない。 「須藤さんって本当、何でも正直過ぎるところがあるよな……」  佑月はゆっくりと顔を上げ、未だに深い眠りに就く須藤の顔を見つめた。

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