108 / 198

第108話

 一週間前、須藤が佑月の部屋の前で謝罪した時は、あまりの自己中ぶりに憤怒した。  村上を思いやる気持ちはなく、佑月だけに向けた謝罪。あのような場では、例え心ではそう思っていなくても、村上に対して悪かったと言うのが一般的だろう。それなのに、村上に対しては何も思うことは無いと須藤は言った。  だけどある意味、須藤には裏が無く、佑月に正直に伝えてきたことを思えば、心に無い事を言われるよりはマシなのかもしれない。とは言え、なんでも正直過ぎるのは、人とのコミユニケーションをとる際には、円滑な人間関係は結べないだろう。だけど須藤という人物は、それらを気にして生きてはこなかったのではと佑月は思った。  今までの須藤を見ていて、彼は周りに合わすことを全くしない。悪く言えば傲慢だ。 「傲慢……。なんかしっくりくるな」  佑月は彫りの深い美しい横顔を眺める。傲慢だけど、佑月にはとても気を使ってくれているのが分かる。一体なぜ自分にはあれ程までに優しいのか。何度も考えてしまう、たかが友人としてのポジションへの過剰な気遣いに思いやり。  恋人を相手になら分かるが……。 「そうだ……須藤さんの恋人には連絡しなくていいのか?」  そう呟いたとき、胸が僅かにチクリと痛んだ。佑月は首を傾げながら胸元を押さえる。 「なんだろ……?」  今はもう痛くないため、佑月は気のせいかと肩の力を抜いた。 「それにしても……この香り」  須藤の部屋に入ったときも感じた、甘くて官能的な香り。須藤の近くにいると余計に強く感じる。そしてあれほど煩かった心臓もようやく落ち着き、何か安心感に包まれているような感覚がした。 「この匂いが香水じゃないって……どんな体臭だよ……いい……匂い」  甘い香りのベールの中で、佑月は睡眠不足もあり、うつらうつらとし出す。ついには眠気に抗えず、佑月はベッドに頬をつけるように落ちてしまった。 ──あぁ……なんだか凄く気持ちいい。  頭を優しく撫でられる感覚。親を小さな時に亡くしている佑月にとって、こうして頭を撫でられていると、とても擽ったくて嬉しくなる。  とても大きな手だ。父親に頭を撫でてもらうことは叶わなかったが、こんな風に心地よいものなのだろうか。 「ん……」  その存在を確かめたくて、佑月は夢現の中でその手に触れてみた。  温かくて男らしくごつごつしているが、肌がとても滑らかで綺麗だ。佑月はギュッとその手を握りしめる。とてもリアルな感触がする。 「あたた……かい」  佑月の意識は、ここで途絶えてしまった。 「……き……づき」 「ん……」  ゆらゆらと漂う安らぎの波に揺られていたが、幸福の時間を壊すように、誰かが佑月の名を呼んでいる。  肩を少し揺さぶられ、佑月は驚いて上体を起こした。 「あ……」

ともだちにシェアしよう!