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第110話

 今日はメンバーに迷惑をかけてしまうが、仕事を休むことにした。佑月が仕事へ行ってしまえば、一人になった須藤は恐らく仕事へ出ていくだろう。それを阻止するために、監視するつもりだ。 「さて、まずは風呂の掃除をするか」  佑月も昨日帰ってきたままの姿だ。須藤が風呂に入ったら、その後に入らせてもらおうと、バスルームへ向かった。  掃除を終えてお湯を張ると、直ぐに滝川へ連絡を入れる。 『成海さん、ありがとうございます! なんとお礼を言ったら……。私共が言っても絶対に須藤様は休んで下さらないので、本当に嬉しいです』  須藤を心から慕っているのだと、滝川の思いがよく伝わってくる。  秒刻みで働く程の忙しい須藤を、勝手に休ませるなどと決めてしまったが、案外というよりも盛大に喜ばれて佑月は逆に驚いていた。本当に須藤には休みが全く無いのだと改めて知ると、そりゃ不調にもなると佑月は少し頭を抱えたくなった。 「いえ……。あの、それで少しお聞きしたいことがあるんですが」 『はい、何でしょうか?』  滝川の明るい返答。佑月は何故か少し詰まってしまったが、思い切って口を開いた。 「今回のこと、その……須藤さんの恋人にお伝えしなくていいのですか? でしゃばってすみませんが……須藤さんのメンタルのケアが必要なら、恋人の顔を見た方が絶対……」  その方がいい。自分といる方が、須藤の気分は一向に良くならないだろう。今すぐに佑月が須藤へと歩み寄っていくことが難しい状況では、須藤の気持ちも滅入ってしまう。だから恋人と過ごした方が絶対良いはずだ。  それは名案だと思っているのに、何故か不意に佑月の胸の辺りがモヤモヤしだした。さっきもこんな風に胸の不快感があった。胸焼けかと思ったが、直ぐに治まるため、佑月は首を傾げるほかなかった。 『……須藤様の恋人は……』 「あ……はい」  今は自分のことを考えるときではない。滝川の言葉を聞き漏らすまいと耳を傾けるが、滝川の声のトーンが落ちていることに気づく。立ち入りすぎたかと佑月は謝ろうとした。 『今は……深い眠りに就いておられるとしか申し上げることが出来ません。すみません』 「深い……眠り……」  遠くにいると言っていた須藤の恋人は、物理的なことを言っていたのではないと知り、佑月の胸が痛む。 「すみません……本当に余計なことを言ってしまいました」 『いえ……私もいつかは必ず目覚めてくださると信じています。もし目覚められなくても、きっと心は繋がると思っておりますので』  滝川の柔らかな声音は、信じて疑わないと強い意志のようなものも感じた。 「そうですね。部外者の俺ですが、俺もそうなる事を願ってます」 『ありがとうございます』  滝川の少し嬉しそうな声を最後に通話を終えた。  佑月は須藤が風呂へ行ったか確認するため、洗面ルームを覗いた。シャワーの音がするため、佑月はホッと長い息を吐いた。

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