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第111話

 動ける程に少しは回復してくれているようだ。でもそれは身体のみの話だが。  佑月は須藤の部屋に「失礼します」と小声で呟いてから中へと入った。主がいない部屋に勝手に入るのはどうかと思うが、食器を早く片付けてしまいたかった。そして出来るなら、まだ顔を合わせずにいられるならそうしたかったからだ。 「……いや……でも」  須藤を避けていたら、今までと何も変わらない。無視をしている事と同じだ。  佑月は食器を軽く流して、ビルトイン食洗機に食器をセットしスイッチを押す。後は食洗機に任せて、佑月はリビングのソファへと腰を下ろした。そしてテレビをつける。  これは佑月がリビングにいるというアピールだ。須藤がそのまま気付かず、またはスルーしたとしても、それはそれでいい。共有スペースに佑月がいると知れば、須藤も少しは気持ちが楽になるかもしれない。  暫くテレビを見るともなしに見ていると、リビングのドアが開く音が佑月の耳に届いた。佑月は腰を上げるとキッチンへ向かう。その佑月の動きを追う須藤の視線を感じる。少し居心地が悪いが、ウォーターサーバーからガラスコップに水を注いだ。 「はい、えっと……水ですが……どうぞ」 「あぁ、ありがとう」  須藤が水を受け取り礼を言う。佑月はここでチラリと須藤の顔を見た。  睡眠薬の力を借りて寝られたお陰か、やはり疲労の色は消えている。風呂に入ったために、血色が良くなっていることもあるだろうが。体力面では柔な佑月と違い、有り余るパワーがあり、回復も早いのかもしれない。  須藤が水を飲み終えるタイミングで、佑月は視線を逸らした。 「……俺も風呂借りますね」 「あぁ」  ガラスコップを受け取るとシンクに置いて、リビングから逃げるように出ていった。背中に感じた強い視線から逃れると、解放感からか長い息がこぼれてしまう。 (……頑張った方だ……よな?)  目をしっかり合わせて話さなかったから、結局は感じ悪い態度になってしまったが。  湯船にゆっくりと浸かり、心身の疲れを癒す。正直、須藤とどう接すればいいのか分からなくなってしまった。無視はしないようにと心掛けていても、さっきのように目を合わせられていなければ、あまり意味がない。だけど今はまだ、須藤を避けたいという気持ちの方が上回っている。 「あー……もう、本当にそのうち禿げそうだ。とにかく目をちゃんと合わせられるようにしないと。頑張れ俺!」  須藤のメンタル回復のためにもと、佑月は自分を鼓舞した。  風呂から出ると、直ぐに風呂掃除は済ませ、洗濯物をドラム式洗濯機へ放り込んだ。  水を飲もうとリビングのドアを開けると、佑月は少し驚いてしまう。いつの間にか真山がいたからだ。須藤はリビングのソファに座っているが、その目の前のガラステーブルにはノートパソコンがある。それを認めた佑月の眉間には、シワが寄っていく。

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