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第113話
少しは須藤のメンタルの負荷を減らせていればいいが。佑月はそう願いつつ、コーヒーを淹れることにした。コーヒーを淹れたら、部屋に戻って仕事をしようと思っている。
「コーヒーどうぞ。俺は少し仕事をしますので、何かあれば遠慮なく呼んでください」
「分かった。すまないが、色々と世話になる」
佑月は須藤へと軽く頭を下げると、足早に自室へと向かった。中へ入って扉を閉めた瞬間、佑月は崩れ落ちるようにその場で蹲った。
「うわぁ……俺、何気に凄いことしてしまった」
須藤は今回の事があるからまだいいとして、真山に偉そうに言った挙げ句に怒鳴ってしまった。
「絶対内心では怒ってるよな……」
こんな歳の離れたガキに。しかもたかが須藤の〝友人〟である男に。何様かと思うだろう。それを表に全く出さないのは、真山が出来た人間だからだ。
「また会った時に謝ろ……」
暫く反省の時間を過ごして、佑月はようやく立ち上がると、机に向かった。
それにしてもと、ふと佑月はキーボードを打つ手を止めた。須藤は叱られるのが久しぶりだと言っていた。あれは佑月のことを言っているのだろうか。
「俺って、前もあの須藤さんに叱った事があるのか?」
そうだとしたら、記憶を失う前の佑月は結構ズバズバと物を言っていたのかもしれない。そう思うと、少しだが溜飲が下がる思いがした。
事務仕事が一段落終えて時計を見ると、十二時を過ぎていた。どうりで腹が減ったはずだと、佑月は急いで須藤の昼食を用意するべく、キッチンへ行く。
(須藤さんは……あ……)
須藤はリビングの大きなソファで、仰臥しているのが目に入った。そっと近づき、須藤の顔を覗くと瞼は閉じられていた。胸元も規則正しく上下している。
(寝てる)
ここは起こす事は出来ない。せっかく寝れているのだ。佑月はそっとリビングから出て行った。
正直佑月も腹が減っている。昼食は何とか朝に炊いたご飯で焼き飯でも作れるが、夕食は買い出しに行かないと何もない。
「一人では外は出られないしな……」
佑月は思い切って滝川に電話をした。すると明るい声で、連絡をくれた事に喜びを表してくれていた。十分程経った頃に、佑月のスマホに滝川から連絡が入り、佑月はリビングをそっと覗いた。ソファには須藤が座っている様子はなく、まだ寝ているようだ。佑月はホッと息をつくと、そっとドアを閉めて玄関の外へ出た。
「こんにちは成海さん」
そこには既に滝川が待機しており、佑月へと軽く頭を下げてきた。
「こんにちは滝川さん、度々迷惑かけますが、よろしくお願いします」
「いえいえ、頼って頂けて嬉しいです。勝手に出歩かれる方が大変ですので」
滝川の屈託の無い笑顔には嘘が一切ない。佑月は釣られて笑うと、二人で近場のスーパーへ赴いた。
須藤が起きてしまう前に帰りたい。佑月は調理しなくても直ぐに食べられる自分用のおにぎりをカゴに入れ、肉や野菜、調味料などあらゆる物をカゴに入れていった。
「随分たくさん買われるんですね」
カートを押してくれる滝川は目を丸くしている。
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